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研究所通信226号より
掲載日:
主張

今こそ、『統一応募書類』改定の真価が問われている

〜6月就職差別撤廃月間によせて

八木良治・大阪府立高等学校同和教育研究会事務局長

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 今年の「就職戦線」は、新規大卒の「就職協定廃止」でスタートした。街には一見してそれとわかるリクルートスタイルの若者が春先早くから登場し、各マスコミ紙上には大学就職部や雇用する企業側の対応記事がしばしば紹介されている。


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一方、高校サイドでは、昨年度に大きく改定された『統一用紙』(全国版、近畿版)が2年目に入る。この間、私たちの研究会でも進路保障部会を中心に、高校生の就職活動の実態把握とともに『統一用紙』の趣旨徹底を求めるとりくみを強化してきた。

年間の研究活動の中では、12月に実施している府立全校アンケートから多くを学んでいる。とくに昨年は、「本籍」欄、「家族」欄の全面削除を中心とする大幅改定を受けての初年度でもあり、これがどのように採用選考に反映し、またどのような課題をもたらしてくるのか、大いに注目しての実施であった。

そこでまず、「家族」欄削除がどのように採用選考に作用したかを問う設問の集計結果を見ると、総数では若干減少しているものの、「家族の関係」では逆に増え、また依然として、家族の「職業」や「学歴」を面接時に聞いてくるケースが後を絶っていない。次に「保護者」欄であるが、今回の改定では続柄と年齢だけが削除され、名前の項目が残った。

この点については96年5月の改定通知直後から、一般的に保護者欄にはまだまだ父親の名のみを書く風潮がこの国にはある中で、とくに母子家庭の生徒や保護者と姓が違う場合に、違反質問、差別選考を招くおそれを指摘してきたが、懸念していたとおりの結果が出ている。「なぜ姓がちがうのか」「(父親は)死別か、離婚か」など、面接を受ける生徒にはつらい違反質問が数多くあった。本人重視、入り口での差別選考を排除するというのが今回の改定の趣旨であるならば、本人の意欲や適性に無関係の「家族」欄と「保護者」欄は同時に削除すべきである。


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昨年度はまた、身元調査が府立高校で1件発覚した。この事件は、応募書類から「家族」欄がなくなったがゆえに、そのことを知りたいがために当該企業の社員が直接身元調査におよんだ事件である。ここにもまた、雇用についての旧態依然とした家庭環境重視の姿勢が見られる。

また、高校での事件ではないが、この3月には大阪府の人権平和室が「部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例」違反として、企業が調査依頼していないのに「地区出身者だ」と報告した大阪市内のある興信所に行政指導を入れている。これらの一連の事件は、かつて「部落地名総鑑」があいついで発見された当時、発行者がその序文で「長年培った社風は一朝一夕にはかえるわけにはいきません…と、予断と偏見をあおる言葉を書き連ねたことを思い出させる。


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また、男女雇用機会均等法が実効を伴う方向で一部改正されるにもかかわらず、女性には不利な就職情況、圧倒的な買い手市場を背景として、労働契約につながるべき求人票の記載内容などお構いなしの、まるで「雇ってやっているんだ」と言わんばかりの企業、また、セクハラの危険がおおいにある職場環境や、法外な入社前講習費を請求され転職すらもできない状況に追い込まれるケースなど、今年も数多くの問題事例が学校現場から報告されている。

さらに、はじめに述べた「協定廃止」の大学卒と高校卒とでは面接マニュアルも全く違ったものを使用している企業もあると聞く。高卒で聞いてはいけないことは大卒でも聞いてはいけない。これは当然のことである。昨年の朝日新聞「天声人語問題」など、『統一用紙』の趣旨を解さぬその典型と言えよう。


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今回の改定は『統一用紙』制定25年の成果をさらに前へ進めるひとつのアクションである。しかし単に応募書類の書式を変えただけでは差別はなくならない。「差別を許さない」システムとしての『統一用紙』をさらに改善していく努力、そしてその精神を大卒就職や進学面にも拡げていく努力を、大学を含めすべての学校、労働行政、企業の共同の営みとして追求していかねばならない。

大阪府労働部がつくる就職差別撤廃月間のポスターは今年も『働くのは私!私自身を見てください』という標語を掲げている。この言葉が完全に実現できる日をめざして、就職・雇用の基本姿勢を、来るべき「人権の世紀」にふさわしく、家庭背景重視から応募者本人にと、意識改革していくことが今こそ求められている。