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意見・主張
 
研究所通信278号(2001.10)より
2003.07.03
国連人権小委員会等に参加して

坂東 希(東京外国語大学学生)




部落解放・人権研究所による原田伴彦記念基金の支援を受け、2001年夏、約40日間をジュネーブ(スイス)で過ごした。反差別国際運動(IMADR)のインターンとして、毎年夏にジュネーブで開かれる国連人権小委員会をはじめとする一連の会議に加え、今年は反人種主義・差別撤廃世界会議が後に控えていたということもあって、世界会議第3回準備会合も行なわれ、こちらにも並行して参加した。

国連人権小委員会(以下、小委員会)においては、7項目からなるテーマ別議題が、3週間にわたって議論された。その第五議題項目「差別防止ならびに先住民族、マイノリティーの保護」の中で、昨年の小委員会による決議(職業および門地に基づく差別に関する決議)に基づき、グネセケレ委員(スリランカ出身)のワーキングペーパーが発表された。

グネセケレ氏は、まず、この研究を進める過程において、自国スリランカにも存在する問題であることを初めて認識したと述べ、この形態の差別は、インド、ネパール、スリランカ、パキスタン、日本を初めとする広範囲において影響を及ぼしている問題であることを指摘した。また日本のような経済発展国にもこのような差別があることに驚いたとの感想も述べた。

IMADRのインターンとして、私は彼の発表後、他のNGOと並んで発言をした。その中で、日本政府による「被差別部落の現状を把握するための実態調査が1993年以来なされていないこと」、「特別法期限切れ(2002年3月)後の部落差別撤廃に向けた明確な戦略が示されていないこと」などを訴えた。また、グネセケレ氏が人種差別撤廃委員会と協力してさらなる研究を進めることを要求し、IMADRならびに部落解放同盟、部落解放・人権研究所、はグネセケレ氏の研究にできる限りの協力をする意思があることを伝えた。

他のNGOについていえば、政府よりのNGOもいくつか参加しており、カースト差別は国内のみにおける問題であり、この場で議論するのにふさわしくないと訴えるインド政府を助ける発言をしていた。一方、ヒューマン・ライツ・ウォッチ(*1)がこの問題はアジア地域だけではなく、ナイジェリアやモリタニア、セネガルをはじめとするアフリカにも存在することを指摘し、グネセケレ氏によってさらに広範囲にわたって研究されることを期待すると発言するなど、彼を奨励するNGOが多く見られた。

昨年の「決議」を受け、今年は「決定」が採択され、内容は昨年取り決められた、「職業および門地に基づく差別」におけるワーキングペーパーの作成を引き続きグネセケレ氏に任せることを決めるものであった。これに関してはモロッコ出身である小委員会委員や日本の横田洋三委員をはじめとする何人もの委員がサポートし、投票なしで(どの委員の反対もなく)、採択されるに至った。

インド政府がカースト問題を含む「門地(世系)に基づく差別」を国際社会の目からそらそうとする働きかけは世界会議第3回準備会合においても感じられた。しかし世界会議(ダーバン)でこの問題が取り上げられないよう取り組んだインド政府の作戦は失敗に終わる。その会合最終日にグアテマラ政府代表により、門地差別の禁止と救済のための適切な法的措置の実施を求める第109段落(もともとはスイス提案であり、インド政府の働きかけにより行動計画案から抜け落ちていた)が、世界会議本会議で議論されることが確認された。

この間、上記の会議を通して「門地(世系)に基づく差別」が国際社会において大いに注目を浴びた。

これらはIDSN(国際ダリット連帯ネットワーク)(*1)のメンバーが働きかけてきた成果であり、私は、今回こういった運動の発展を、インターンシップという活動を通して目にすることができ、とても幸運だった思う。この機会を与えていただいたことに感謝したい。

(*1)IDSN(国際ダリット連帯ネットワーク)はIMADRや部落解放同盟などもメンバーの一員であり、ダリット問題を中心とする門地問題に取り組むNGOのネットワークである。アメリカに本部がある国際人権NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチもその一員である。