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2005.12.14
意見・主張
  
解放新聞大阪版 第1631号(2006年2月20日) より
戸籍不正入手・密売 差別身元調査事件

市長トップに対策本部を設置

全容解明、再発防止で方針  大阪市


  行政書士による戸籍などの不正入手・密売事件に関わって府連は2月1日、大阪市と交渉した。大阪市では事件が発覚し行政書士らが廃業・業務停止になったあとも、その行政書士の「職務上請求書」を使った請求に応じて住民票などを交付していた。

 交渉では大阪市の個人情報に関するずさんな取り扱いを追及するとともに、新たな「部落地名総鑑」が発覚し、事件が単ある戸籍不正入手ではなく部落差別身元調査事件であることが明白になったことをふまえて、全容解明に向けて市長をトップとした対策本部を設置することなどを確認した。

発覚後も戸籍など交付

  大阪市北区中之島の中央公会堂でひらかれた交渉には村井康利副委員長、小島伸一財務委員長、北口末広書記長はじめ執行部と大阪市内ブロック各支部の代表が出席。大阪市からは柏木孝助役をはじめ、関係者が出席した。

  谷川雅彦政策部長が進行。冒頭、北口書記長があいさつし「新たな部落地名総鑑の回収によって、今回の事件が単なる戸籍の不正入手ではなく部落差別事件であることが明確になった。戸籍制度自身にも問題はあるが、現在の保護基準ですら守られていなかった大阪市の責任は大きい」とのべるとともに、「戸籍不正入手事件では部落出身者だけでなく、多くの市民も自分の戸籍が取られている被害者である。しかし、戸籍を取られたという自覚すらないことが制度上もっとも大きな問題である。市民に重大性を喚起するために、市長自ら記者会見を開き、市政だよりに掲載するなどして再発を防止する必要がある」と求めた。

  府連からの要望項目は▽府からの通知により他市では交付されなかったにもかかわらず、なぜ大阪市で交付してしまったのか▽不正取得に関わる市長の見解を明らかに▽全容解明に向けて「戸籍不正入手・『部落地名総鑑』事件」対策本部(仮称)を設置し、真相糾明、再発防止の方針を▽市政だより、ホームページ、市長の記者会見などを通じて市民に事件の真相を公開し、心当たりのある市民の相談を受ける、など。

  柏木助役は当該行政書士からの請求には応じないことを通知されていたにも関わらず、大阪市の二つの区役所で戸籍などを不正請求に応じて交付していたことについて謝罪。しかし、事件が重大な人権侵害、部落差別事件であるとの認識が感じられないため、府連からは新たに回収した第9、第10の「部落地名総鑑」を示し、不正に入手された戸籍とこの部落地名総鑑が重なることは何を意味しているのか、部落差別身元調査が行われていることは明白であると厳しく指摘した。

  さらに3人の元行政書士だけでなく、職務上請求が認められている他の資格者からも不正な請求がなされている実態が明らかにされつつあることを指摘し、全容の解明に向けて真摯な回答を求めた。

  交渉では(1)戸籍を不正に取得された被害者に通知し事件の経緯について説明すること(2)市政だより、ホームページなどを通じて事件の真相を公開する(3)真相糾明、防止に向けた方向を2月中にまとめること(4)市長をトップとした「戸籍不正入手・部落地名総鑑事件対策本部」(仮称)を今年度中に立ち上げる、などを確認した。

第9・10の「地名総鑑」
  今回回収されたのは第9、10番目の「部落地名総鑑」。一つはA4版332ページにおよぶ手書きのコピーで全国の部落の地名、所在地、戸数、人口などのほか、大阪の部落については地区ごとに詳細なレポートがつけられていた。もう一つのものはゴムひもで綴られた186ページのファイル。タイプ打ちされた部落の一覧に手書きの符号、修正などが書き加えられている。

  「部落地名総鑑」差別事件は1975年11月、大阪府連に匿名の投書が送られてきたことから発覚し大きな社会問題となった。これまでに8種類が確認されており、そこには全国5300ヶ所を超す部落の名前、所在地、戸数、主な職業などが都府県別に記載されていた。作成者は、興信所・探偵社の関係者で、220を超す購入者の大半は企業で、日本を代表する企業も数多く含まれていた。法務省は、1989年にこの事件の「終結宣言」を出していた。