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2010.01.18
意見・主張
  

文科省「人権教育の推進に関する取組状況の調査結果について」の評価と今後の課題


 人権教育啓発推進法と「基本計画」を受けて、文科省は学校教育分野に関する「人権教育の指導方法等の在り方について・第3次とりまとめ」を2008年3月にまとめた。さらに2009年1月には、全都道府県・市町村教育委員会、1959の公立小中高校・特別支援学校(全学校の5%、回答は1712校)に対しその活用状況を調査し、その結果の分析を10月に『人権教育の推進に関する取組状況の調査結果について』として公表した(全文は<http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/024/index.htm>)。

調査結果の概要

 その中で浮き彫りとなった点で、主な課題のみを以下紹介する。

    <教育委員会>

  1. 47都道府県中、7県の取り組みが低調。
  2. 都道府県と比べ市町村の取り組みが全般的に低調。「人権教育に関する推進方針又は推進計画」を「策定済み」(790:45%)・「具体的に策定作業を進めている」(72:4%)。ただし、市町村の規模等の課題もあり、都道府県の支援・協力が重要。
  3. 都道府県段階でも推進状況調査の実施・何らかの公表が31県、独自の研究指定校が27県と、PDCAサイクル、特にC=検証が弱さ。
  4. 「第3次とりまとめ」の周知自体の弱さ。「広報誌・HPへの紹介記事の掲載」「教育委員会職員の勉強会」(共に19)、「資料等の作成」(14)
  5. 人権教育に関する研修の弱さがあること。例えば新任校長研修での実施は18県、内容的にはスキル面、方法的には地域に出かけた研修、実習・演習型、参加体験型が弱い。

    <学校>

  6. 小中学校と比べ、高校・特別支援学校の取り組みが弱い傾向。
  7. 研修で、教材開発や授業研究、活動プログラムの導入等の弱さ(「よく取組んでいる」(237校:13.9%)・「どちらかといえば取り組んでいる」(857:50.2%)。
  8. 学校と家庭・地域との協働の弱さ。教材選定・開発で「保護者・地域の人と共に作る教材の活用」(124)、「地域の教材化」(524)→「視聴覚教材」(1059:62%)「外部講師」(948:60%)。家庭・地域との相互関係の研修で「よく取組んでいる」(107)、「どちらかといえば取り組んでいる」(733)。
  9. 人権教育の3側面である「価値的態度的側面」「技術的側面」「知的側面」に関する、関心・取り組みのアンバランスの可能性。「どのような資質、能力を身につけさせることに力を入れているか」(5つまで)に対し、「違いを認め、尊重する意識、多様性に対する肯定的態度」(1438)、「想像力や感受性」(1234)、「自尊感情など」(1138)→「人権関係の法や条約等の知識」(63)、「合理的・分析的な思考、公平で均衡のとれた結論に到達する技法」(57)

    <国の責任>

  10. これら全体の課題に対する支援=「情報提供・発信」

評価と今後の課題

 評価としては、<1>調査項目などで不十分点もあるが、全国の自治体の教育委員会、学校での人権教育の

 現状(成果と課題)を「第3次とりまとめ」の視点から初めて明らかにしたことは高く評価、<2>人権教育啓発「基本計画」や「人権教育の世界プログラム」で明記しているフォローアップを学校教育の分野に限られているが実施した意義、<3>時間的な制約などもあり分析の掘り下げや課題提起の弱さがあること、といった点が指摘できる。

 したがって今後の課題としては、<1>さらに分析を深め、どのような成果と課題があるかを明らかにしていくこと、<2>その成果と課題に基づき、国、都道府県、市町村、学校での取り組みを一層発展させていくこと、などがある。とりわけ、国連人権理事会が2009年9月に「人権教育世界プログラム」(第2段)の決議を行い、<1>「引き続き初等・中等教育制度における人権教育の実施を継続すべきこと」、<2>「第2段の焦点を、高等教育のための人権教育、ならびにあらゆるレベルの教員と教育者、公務員、法執行官、軍関係者のための人権研修プログラムに置くこと」(全文は『ヒューマンライツ』261号31・32頁)をうたっていることを考慮すれば、国の責任や役割は極めて大きいと言える。

(文責中村清二)