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2011.07.01

意見・主張
  

「差別禁止法」の制定を ~ 各界の代表らで市民活動委員会


  「差別禁止法の制定を求める市民活動委員会」の設立総会が6月9日、衆議院第2議員会館でひらかれた。中央本部の松岡徹書記長や近畿大学の奥田均教授などの共同代表をはじめ、趣旨に賛同する市民らが参加し、差別禁止法の制定をめざして勉強会や情報発信などに取り組んでいくことを決めた。
部落差別をはじめ、日本社会には様々な差別が存在する。日本国憲法で基本的人権の尊重がうたわれているが、いまだ差別行為そのものを規制する法律は存在しない。こうした現状に一石を投じようと2007年から活動してきた「差別禁止法研究会」の活動を発展させ、ネットワーク型の市民組織として差別禁止法の制定に取り組もうと準備が進められてきた。
総会では共同代表の奥田均さんがあいさつし、設立の経緯や趣旨について説明。「日本社会では自殺にまで追い込まれる結婚差別でさえ慰謝料請求という民事訴訟しか用意せず、ハンセン病回復者に対する宿泊拒否という言語道断の排除、差別に対しても旅館業法でしか対応できない」という理不尽な現状を指摘。
これまでの差別対策は当事者に焦点をあてた生活支援が中心であったが、差別そのものをなくすためには社会全体に向けたルールづくりが必要であり、それが差別禁止法であると強調し、制定に向けて様々な困難が待ち受けているが、被差別当事者ががっちりとスクラムを組み、障がい者解放運動が提起した「私たち抜きに私たちのことを決めないでほしい」という精神で困難を一つひとつ乗り越えていきたいとのべた。
共同代表をつとめるジャーナリストの竹信三恵子さん、北海道アイヌ協会の多原良子さん、DPI日本会議の楠敏雄さん、中央本部の松岡徹書記長、人材コンサルタントの辛淑玉さんがあいさつ。
幹事をつとめる府連の谷川雅彦書記次長が委員会の運営について説明。差別禁止法の制定を求める世論づくりに向けて、広く委員を募集し、勉強会やイベントなどを開催。インターネットなどを活用してインターネットなどを活用して情報交換、情報発信を行い、政策提言などにも取り組んでいくことを決めた。
各界からのアドバイザーや参加者からも問題意識が出され、ネットワーク型の市民活動組織として緩やかな連帯のもとで取り組んでいくことを申し合わせた。
共同代表は以下のとおり。
神 美知宏(ハンセン病回復者)、多原 良子(北海道アイヌ協会札幌支部)、楠 敏雄(DPI日本会議)、松岡 徹(部落解放同盟)、申 惠丰(青山学院大学)、竹信 三恵子(和光大学/ジャーナリスト)、丹羽 雅雄(RINK/弁護士)、辛 淑玉(人材育成コンサルタント)、奥田 均(近畿大学人権問題研究所)。
【解放新聞大阪版 第1876号 2011年6月20日】より

 

 

「差別禁止法」Q&A
「差別禁止法の制定を求める市民活動委員会」の組織紹介、活動内容を紹介したパンフレットの中に差別禁止法について解説した「『差別禁止法』Q&A」があるが、今回それを紹介する。

<問い合わせ・連絡先>
差別禁止法の制定を求める市民活動委員会
577-8502東大阪市小若江3-4-1 近畿大学人権問題研究所内
FAX:06-6730-2632
e-mail:shimin@sabekin.net
ホームページ:http://www.sabekin.net

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Q1:「差別禁止法」によって差別が規制されることになるわけですが、一体、だれが「差別かどうか」を判断するのでしょうか?

  市民からの訴えにもとづき、これを調査し、差別かどうかを判断する公正で中立的な機関が必要です。これが「人権委員会(国内人権機関)」であり、この機関が差別に関する判断をすることになります。また「人権委員会」では、人権相談や被差別当事者への救済措置、さらには人権政策に関する政府への提案活動も期待されます。
この人権委員会は、政府から独立した組織であることが望まれます。たとえば公正取引委員会のような組織です。なぜなら、時には国家が差別をしてしまう場合もあるからです。人権委員会の独立性に関しては、1993年に国連で採択された「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」でも述べられています。

 

Q2:「差別禁止法」が制定されると、それが差別になると気がつかなくてしてしまった行為や発言なども処罰の対象になっていくのでしょうか?

  「差別禁止法」の目的はあくまでも差別の完全撤廃であり、何でもかんでも差別を処罰することが目的ではありません。ですから、差別の防止・解消という観点からの取り組みの推進が大きな柱になっていきます。当然、教育や啓発の取り組みも重要な課題です。
しかしたとえば「部落地名総鑑」の発行・販売のように、差別によってお金儲けをしようとしたり、著しく被差別者の人権を侵害するような悪質な差別については是正措置や一定の罰則などが検討されることになります。

 

Q3:「差別禁止法」によって禁止される差別とは具体的にどんなことでしょうか?

  「差別禁止法」の具体的な内容はこれから議論しつくりあげていくものですから、ここで勝手にお答えすることはできません。しかし諸外国の「差別禁止法」を見ると次のような形で禁止されるべき差別を規定しているものが多いです。一つは「差別事由」による規定です。たとえば、性別、宗教、障害、年齢、社会的身分、出身地域、出身民族、容貌、人種、性的指向、病歴、思想、犯罪歴、学歴などを理由とする差別です。もう一つは、「分野」における規定です。雇用、住宅、教育、医療、社会保障、物・施設・サービスの利用、団体加入などにおける差別です。
しっかりと議論をして、考え方を深めていきたいと思います。

 

Q4:「差別禁止法」制定の取り組みをすすめるにあたって、いま一番重要な取り組みはなんでしょうか

  法律をつくるにあたっては、なぜその法律が必要であるのかという事実を具体的に明らかにする必要があります。こうした事実を立法事実と呼びますが、「差別禁止法」の場合には、現に生じている差別の現実がこれにあたります。しかもそれを社会的に明らかにし、第三者がこうした事実を認識できるように示さなければなりません。
そのためには、被差別当事者がみずからの悔しい思いやつらい体験を一つひとつ明らかにし、差別の現実をつまびらかにすることが求められます。しかしこの作業は簡単にすすむものではありません。当事者が被差別の事実を告発するということは、とりもなおさずカミングアウトすることを意味しており、差別が厳しければ厳しいほど、さまざまな困難がともなうからです。
市民活動委員会では、みなさんの力をかりながら、厳しさを乗り越えて「差別禁止法」制定の最重要のこの課題に取り組んでいきたいと考えています。

 

Q5:「差別禁止法」制定の取り組みに、一市民である私には、なにができるでしょうか?

  法律の制定を実現する最終的な決め手は世論の力です。圧倒的多数の市民が、「差別禁止法を制定せよ!」と声を上げれば、必ず、この取り組みは成功します。市民活動委員会は、こうした世論を形成し、国会に届けるための仕組みであると受け止めていただければうれしいです。その意味で、被差別当事者とともに「差別禁止法」制定運動のもう一人の主人公は多くの市民のみなさんです。ぜひ、「差別禁止法」制定の世論を結集するために、市民活動委員会にご参加ください。そしてみなさんの仲間の人にも、参加を呼びかけてください。
私たちにはお金も大きな組織もありませんが、世界各地での民主化の運動に学び、インターネットという文明の利器を駆使してこの世論の力をたくわえたいと考えています。そして、会員間の情報の共有を通じてお互いに学び、交流し、知恵を出し合いたいです。こうした経験を重ねながら、「差別禁止法」がめざしている「差別のない社会」の担い手へとお互いに成長していきたいと願っています。

パンフレット『希望の未来設計図 「差別禁止法」をつくる』より