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2007.09.03

新聞で読む人権
2007年7月

セーフティネット機能を後退させる生活保護制度

  • 2007年3月18日 読売新聞 大阪 就労可否医師ら判定 生活保護受給者
  • 2007年6月13日 朝日新聞 大阪 生活保護 何度申請しても断られ、サラ金へ・・・ 防げ、切捨て

 消費者金融の利用者は、少なく見積もっても1400万人と言われています。このうち、複数の消費者金融を利用し、債務超過に陥り返済そのものが困難な状態となっている「多重債務者」は、政府の統計では200万人、民間で多重債務問題に取り組む「全国クレジット・サラ金問題対策協議会」の調べでは、230万人がいると言われています。

 多重債務の被害には、いわゆる「サラ金」や「クレジット」などの直接金融と、「ショッピング」や「立替払契約」など間接金融の双方の被害者が存在しています。

 こうした直接金融、間接金融を問わず、支払いが不能になってしまうケースには、中高年齢層の低所得者、高齢者、障害者に多く見られ、いわゆる社会的且つ経済的な弱者に集中して現れているのが特徴といえます。

 多重債務者を減少させるには、「生活保護制度」の活用は、極めて有効な手段です。ところが、行政窓口による「水際作戦」と呼ばれる、違法な生活保護の申請却下が、全国で相次いでいます。

 失業や病気のために、どうしても生活が困難になった場合の、最後のセーフティネットが生活保護制度です。ところが、申請を却下され追い返されたため、やむをえず高利の「消費者金融」に頼ります。もともと失業者や病気のために収入手段が断ち切られているわけですから、返済や、高利の利子支払いにも事欠く状態が生まれます。金融業者からの迫られる返済催促に、心理的にも追いつめられ、再び別の消費者金融から借り、当座の返済を事済ませます。しかし、その後には、より大きな元金と高い利子支払いが待ちかまえていることになります。

 こうした悪循環の発端には、元来、社会的・経済的弱者であるため失業者や病気が、即座に生活困難に直結してしまう生活基盤の脆さが存在しています。

 そして、何よりも重大な事柄は、こうした社会的・経済的弱者の困窮を救うべき「生活保護制度」の活用を、実施者たる行政の手により申請却下として断ち切ってしまっていることです。

 このような違法な生活保護制度の「水際作戦」が、数多くの多重債務者を生み出している大きな原因のひとつだと断言できます。

 多重債務者が生み出される悲劇を防止しようと「生活保護問題対策全国会議」が、法律家や市民の力で設立されました。これは、前記した「全国クレジット・サラ金問題対策協議会」の関連組織に位置づいています。

 同「全国会議」では、多重債務の被害者が自ら実態を明らかにしたことにより構造的問題であることを証明し、グレー金利問題や、昨年12月の「貸金業法」の抜本改正につながる大きな原動力になったことを踏まえ、生活保護の申請却下にも当事者の声をあげていく取り組みを重視しています。

 生活保護の切り捨ても、消費者金融の高金利のどちらも、自殺や餓死を招きかねない極めて深刻な「生きる権利を奪われる」問題といえます。

 同「全国会議」では、行政の生活保護の現場は、多重債務以上に深刻な現状であることを重視し、今後、積極的に生活保護の申請への支援を強めていくとともに、行政窓口の違法却下への訴訟にも、どんどん取り組んでいくことを明らかにしています。