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2007.09.03

新聞で読む人権
2007年7月

「強制労働」と批判を受ける実態の日本の外国人研修制度

  • 2007年6月10日 朝日新聞 大阪 ひと 外国人研修生権利ネットワーク共同代表に就任する
  • 2007年6月14日 読売新聞 大阪 外国人の売春、長時間労働 人身売買 実態報告へ
  • 2007年6月13日 朝日新聞 大阪 夕刊 日本の外国人研修制度の一部 米「強制労働」と指摘
  • 2007年6月18日 朝日新聞 大阪 外国人研修生 建前と実態が違いすぎる

 6月12日、アメリカ国務省から「2007年・人身売買報告書(2007 Trafficking in PerspnsReport)」が発表されました。これは、米・人身売買犠牲者保護法(Victims of Trafficking and Violence ProtectionAct of 2000・以下「TVPA」と略)に基づき、毎年6月に発表されています。

 2007年版の報告書においても、昨年に引き続き、日本は第2階層(取り組みは表明しているが国際基準を満たしていない国)に位置づいており、とりわけ、外国人の「研修・実習制度」が人身売買の制度としてはじめて指摘されました。

 「2007年・人身売買報告書」には、151の国と地域の各国ごとの報告が記載されており、第1階層から第3階層までの3つに区分けされています。

 第1階層とは、取り組みのあり方が国際基準を満たしている国、逆に、第3階層は、人身売買撲滅に向けた最低限の取り組みさえ守れていない国とされており、それでは第2階層は「中間くらい?」という感もあります。

 ところが、今年の第1階層には28カ国が記載されていますが、先進国のほとんどがここに位置し、いわゆるG8参加国以外でも、お隣の韓国をはじめ、リトアニア、モロッコ、スロベニア、コロンビア、マラウィ等も含まれています。

 第3階層には、16カ国が記載されていますが、キューバ、イラン、北朝鮮、ベネズエラなど、米と敵対関係にある国と、ビルマ、スーダン、バーレーンなどの重大な人権侵害が常々指摘される国々です。

 そうすると、第2階層が「中間くらい」とは、とても言えない状況と言うこともできます。

 この第2階層には107カ国がリストアップされています。アジア諸国では、アフガニスタン、バングラディシュ、カンボジア、中国、インド、インドネシア、ラオス、モンゴル、ネパール、パキスタン、フィリピン、シンガポール、スリランカ、台湾、タイ、ベトナムなどが含まれます。ちなみに、G8参加国での第2階層に属しているのは、ロシアと日本のみです。

 報告書における日本の人身売買の実態には、次のように記述されています。

 日本は、「商業的な性的搾取のために売買される男女や子どもの目的国」と記され、頻度は少ないが通過国になっていることが冒頭に指摘されています。引き続く箇所に、移民労働者の中に「海外研修生制度」という名目で「強制労働の状態」に置かれていることが指摘され、日本政府に対して「『外国人研修生』制度に参加する労働者が強制労働状態に置かれている可能性」を「日本人の女性と子どもに対する家庭内での性的搾取」、「人身売買の手段としての偽装結婚」を含め「捜査に一層の努力を払うべき」ことがらと指摘しています。

 さらに、日本政府に対しては「報告書」は手厳しい指摘がなされています。羅列的ですが、1.日本政府は「人身取引対策行動計画」と「人身取引に関する関係省庁連絡会議」を通じて改革を実施しているが「進展が遅い」ように見えること。2.2005年の刑法改正により人身売買罪の適用起訴と有罪件数は大幅に増えているが(2005年有罪が1件から2006年は15件に)、政府による人身売買被害者の支援は大幅に減ったこと(2005年の117人から、2006年には58人まで減少)。3.人身売買保護にあたり、47都道府県に家庭内暴力被害者のためのシェルターを設置しているが、政府から、NGOが運営する人身売買被害者専用シェルターへの被害者紹介事例がほとんどないこと。4.国会が「国連国際組織犯罪防止条約」を批准せず、その議定書である「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人、特に女性及び児童の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書」(仮訳)にも署名のみで未だ批准していないこと、などが盛り込まれています。

 その後のことですが、7月3日に米国務省の人身売買監視・撲滅室長のマイク・ラゴン氏が来日し、外務省・法務省・厚生労働省などに、外国人「研修・実習制度」の廃止を働きかけました。ラゴン室長は、廃止提案の理由として「労働者を採用する者が借金を利用し労働者をコントロールし、実質的に拘束状況に置いてしまうことになる」制度だと語っています。

 米国からも制度廃止を求められる外国人の「研修・技能実習制度」とは、どのような実態なのでしょうか。このWeb欄に「制度」そのものの沿革を先月簡単に記しています(外国人研修・技能実習制度で来日したベトナム人女性6人が、トヨタ自動車の下請けや、国の受入機関「国際研修協力機構」を、名古屋地裁に集団提訴した報告)ので参考いただきたいのですが、今年5月に、「国際研修協力機構」を構成する中心的な3つの組織から、相次ぎ、「研修・技能実習制度」の見直し提案が出されています。

 厚生労働省が5月11日、経済産業省が5月14日、法務省が5月15日と、3つの提案が示されました。

 厚生労働省のものは、今野浩一郎(学習院大学経済学部教授)を座長とする「研修・技能実習制度研究会中間報告」、経済産業省のものは、依光正哲(埼玉工業大学教授)を座長とする「外国人研修・技能実習制度に関する研究会・とりまとめ」、そして法務省のものは、省からではなく、長勢法務大臣発言なので「長勢私案」と呼ばれるものです。

 3案が相次いで発表されたのは、昨年12月25日の「規制改革・民間開放推進会議第3次答申」において、外国人研修生が低賃金労働者として扱われている実態の改善と制度見直しを「遅くとも平成21年通常国会までに関係法案提出」を謳われた流れを受けたためです。

 3案を大雑把に列記すると、1.厚生労働省案は、現行の1年プラス2年を改め、実習3年・一度帰国・条件付き2年延長という5年間システムへの転換、2.経済産業省案は、現行制度継続指向であり、さらに条件付きで5年間に延長するというもの、3.長勢私案は、研修・実習生としてではなく、当初から単純労働者として受入れ3年間の短期雇用として受け入れるというものです。

 ここでは、3案比較や各報告書の細部検証として記載したわけではありません。厚生労働省、経済産業省、法務省、そして「規制改革・民間開放推進会議」が共に、現在の「研修・技能実習制度」が大いに問題があることを承知しているのです。そして糊塗するかの如き、報告や私案を提出されたことを報告したまでです。

 発展途上国において、日本に研修に行けば、母国の通貨レートで「月8万円から10万円」になると言われ、日本の物価も知らされず、母国ブローカー(当然、母国政府機関も関与)に借金をして、到着すれば日本のブローカー(国際研修協力機構では「事業協同組合」と呼ばれています)により、パスポートを取り上げられ、外部との連絡を禁じ(携帯電話の取り上げ、外部電話の禁止、工場等作業現場の敷地内での寝起き)、長時間労働(研修なので最低賃金制度は無関係のうえ、残業をさせる)を強いられ、告発も保護の求めもできない状態に置かれている、という話は作り話ではありません。そして、こうした事実を告発できたのは、ごく一部にすぎません。

 米国務省の指摘を待つまでもなく、人身売買、強制労働の温床になっていることは言を待ちません。