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2007.09.03

新聞で読む人権
2007年7月

大学生の採用面接時「家族状況質問」6割も

  • 2007年5月22日 読売新聞 大阪 学生採用時 「家族状況質問」6割

 「どこに住んでいるの?」「兄弟は何人いるの?」「親の仕事はどんな職業?」いずれも日常会話においては、何気なく交わされるであろう会話の一部かもしれません。逆に、「どうしてそんな事に答えなければならないのか」と反問すると、つきあいのしにくい人と見なされたり、避けられたりする関係が生じるかもしれません。

 友人や知人の間で交わされる日常会話と、入社時採用試験などの明らかな利害関係が生起している場面との混同が存在しているとともに、世の中全体が身元調査事項質問に対して、贖罪感が薄れている傾向が懸念されるところです。

 そうした世の中の趨勢に、企業も企業の人事担当者も悪のりしている状態が露骨になっています。もっとも謙虚に他人を思いやるべき立場の雇用主や人事担当者による不当な発言が生まれてきています。つい何気なく発せられる差別ほど、被差別の側にとっては抗しようのないやるせなさと憤りが混在するものです。怒り以上に、もっと大きく無力感に襲われます。ましてや「人生の門出」である就職試験にまつわる忌まわしい出来事として発生しています。

 記事は、大阪府下85の大学の協力(「大阪府下大学等就職問題連絡協議会」以下「大就連」と略)により新規大学卒業者に対して、企業がおこなう採用選考のさまざまな過程のなかで判明した不公正な実態が、はじめて公表されたことを伝えています。

 家族の職業やその収入、思想調査、「本籍地」質問が続々と明らかになっています。具体例として、記事には、提出作文のテーマが「私の生いたち・家族」と、面接官から「営業なら採用するが、ミニスカートをはいてもらう」と発言されたことが報道されています。

 報道されている内容は、まさに氷山の一角で、これらは今年5月、大阪府商工労働部雇用推進室から出された「『大学生の就職に係る公正採用選考に反する問題事象』報告」(以下「問題事情報告」と略す)からの部分抜粋にすぎません。この報告書は、「公正採用・雇用促進会議」(以下「雇促会」と略す)の「研究部会」の取り組みから生まれました。

 「雇促会」は、37年に及ぶ歴史をもつ協議機関で、その名のとおり「公正採用」と「雇用促進」の取り組みを進めてきた大阪独自の機関です。「雇促会」には、特定事項協議のための3つの専門委員会があり、それぞれ「中学校・高等学校・職業能力開発校等専門委員会」、「他府県関係専門委員会」、「大学等専門委員会」として開催されています。

 それら3つの専門委員会とは独立して、「研究部会」があり、調査研究がおこなわれています。2003年度の調査研究のテーマは「大学等卒業者の就職実態の把握と公正な採用選考を実現するための対応」についての調査研究がおこなわれました。ここでは「問題事象の把握」「解決」と「再発防止」のために、学生ひとりだけや大学のみでの対応による問題解決の限界を明らかにし、行政機関、専門機関の協力システムの必要性が示されました。

 これを受けて設置された「問題事象に対する解決方策検討会」の「報告」が2004年12月に示されます。そこには、問題事象の把握のために、学生から「就職差別等についての報告書」の様式を定めたこと、大学の就職担当者からは「就職差別等に係る募集要項等チャックシート」を作成したこと、また、解決のために「大学からの問題事象への対応フロー」や「重大事象対応の会議における対応フロー」などが示されています。これにより、大学はもとより、国、府、人権関係機関等が一体で取り組める解決方途の基本体系が確立されました。

 そして、再発防止の取り組みの一環として、「個別問題事象の集約と報告、発表」も示され、大阪府が年間報告書として作成することも確認されます。その初めて発表された報告書が、今回の記事となったものです。

 報告書の内容には、2004年度と2005年度の2年間での大学就職担当者と学生自身から申告された件数、内容などが記載されています。

 大学の就職担当者からは、2004年度51件、2005年度107件の「問題のある募集要項・求人票等」の報告があります。

 学生からは、身元調査や会社独自の社用紙使用など「面接以外の問題事象」として、2004年度112件、2005年度120件が報告されています。また、本籍地や家族の学歴、支持政党などを質問した「面接時に問題のある質問等」では、2004年度992件、2005年度は984件も報告されています。

 少しでも人権問題をとらえる視点が備わっていれば、無法状態とも呼べる現状であることが理解されると思われます。ところが、実際には、「法」は存在しているにもかかわらず、こうした実態があり、この把握された実態は、ほんの一部にすぎないであろうと十分に想像されることなのです。

 「法の存在」とは、職業安定法です。その第5条の4には「求職者等の個人情報の取扱い」が規定されています。さらに、第5条の4に基づく労働大臣指針(1999年労働省告示第141号)が示され、認められない個人情報の収集として、「家族の職業、収入、本人の資産など」や「容姿、スリーサイズなど」「人生観や支持政党」、また「労働運動や消費者運動などの社会運動経験」などに関する情報収集を禁じています。

 では、法があるにもかかわらず、なぜ、このような無法な実態が存在し続けるのでしょうか。

 就職に際しては、全国的に応募書類様式の統一が徹底されています。

 新規中卒者の場合は、ハローワークが直接介在し、応募書類は「職業相談票〔乙〕」に定められています。

 新規高卒者の場合には、1973年以降、応募書類は「全国統一応募用紙」に基づいたものです。

 さらに、既卒者や中途採用の場合の応募用紙は「JIS規格履歴書」でなければなりません。

 ところが、新規大卒者のみは、応募様式の統一がなされていません。ここに、応募する側も採用する側も独自様式を作成し、違反用紙が生まれる一因を生じさせています。

 加えて、「雇促会」や、85もの大学が集う「大就連」は、大阪府のみの独自組織です。そのため、国(大阪労働局)や都道府県(大阪府)とともに大学と学生とが事実を把握し、重大事象に対応し、その指導と再発防止に向けた取り組みは、大阪でしか行われていません。

 全国化されてこそ、このシステムの機能が発揮され、再発防止よりも、まず発生が食い止められます。全国的な大学生のための統一の応募様式の必要性が切に望まれるところです。