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2007.09.26

新聞で読む人権
2007年9月

駅のバリアフリー、37%は基準不適合

  • 2007/08/17 日本経済新聞 大阪 夕刊 1日の乗降客数5000人以上 駅バリアフリー37%基準不適合 

 2000年11月15日から施行されている、所謂「交通バリアフリー法」は、正式名称では「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」といいます。

 2006年12月20日からは、「バリアフリー新法」と呼ばれる「ハートビル法」(1994年に施行)と、「交通バリアフリー法」とが合体されたものが施行されています。

 ここでは「交通バリアフリー法」に基づき、そのひとつの目安である、1日の乗降客数が5000人を超える駅2789を対象として、エレベーターやエスカレーターの効果的な配置状況を国土交通省が調査した結果、達成しているものは1767駅、達成率は約6割強という結果を報告しています。これでは国土交通省が2010年を目途に、総ての駅を対象に完全バリアフリー化を達成するという目標には到底おぼつかない状況となっています。

 少し細部説明が必要かと思われます。

  1. まず、全国の鉄道の駅数は、調査時点では9512の駅が存在しています。うち、1日の乗降客数5000人を超えるのが上記のように2789駅、1日の乗降客数が5000人未満の駅は6723を数えます。
  2. 記事では、2789駅のバリアフリー化が法律で義務化され、その一方、6723駅は「努力義務」となっているかのような、画一的な記載にとどまっています。しかし、交通バリアフリー法では公共交通事業者に課せられる法的義務は、わずか2つにとどまります。1つは、新たに駅などの旅客施設をつくる際には「エレベーター、エスカレーターの設置」「誘導警告ブロックの敷設」「身体障害者用トイレの設置」などをおこなうことと、もう1つは、新車両の導入の際に、「車椅子スペースの確保」「車両内の視覚案内情報装置の設置」、また、バスの場合には「低床車両」に、航空機の場合には「可動式肘掛けの装着」などが義務づけられています。しかしながら、既設の旅客施設や車両などは、あくまでも「努力義務」になっています。
  3. それでは、なぜ1日の乗降客数が5000人以上か5000人未満なのかを区分けしているかと言うと、交通バリアフリー法の対象は、旅客事業者のみではなく、国の役割と、市町村の役割とが明示されています。

 まず、国は「バリアフリー化の意義や目標」を示さねばなりません。それが、国土交通省が2010年までに鉄道駅の完全バリアフリー化という目標となっています。また、国は「市町村が作成する基本構想の指針」を示さなければなりません。

 この国の基本構想の指針に基づき、市町村は地域のバリアフリー施策として、駅を中心とした駅周辺地区のバリアフリーの基本構想を作成することになっています。市町村が「基本構想」を作成することが可能な駅と駅周辺(これを法的には、駅を「特定旅客施設」、駅周辺を「重点整備地区」と呼びます)、この要件が国の指針の中に定められています。

 指針における「特定旅客施設」とは、以下の3つの条件です。

  1. 1日の利用者数が5000人以上の旅客施設
  2. 当該市町村の高齢化率等の地域の状況からみて、高齢者、身体障害者の利用者数が(ア)の旅客施設と同程度と認められる旅客施設
  3. その他、徒歩圏内にその旅客施設を利用する相当数の高齢者、身体障害者等が利用する施設が存在し、その旅客施設の利用の状況から、移動円滑化の事業を優先的に実施する必要が特に高いと認められる駅などの施設、

 (A)(B)(C)のいずれかの条件にあてはまる旅客施設を指しています。

 つまり、市町村が基本構想を作成する際には、1日の乗降客数が5000人というのは大きな目安となってくるものです。市町村が、基本構想において「特定旅客施設」として、ある駅を定めた場合には、鉄道会社などの公共交通事業者は、その基本構想に沿って事業計画を作成し、バリアフリー化にむけた事業を実施しなければなりません。

 高齢者や身体障害者はもちろんのこと、赤ちゃんを連れた買い物客や、足を負傷している場合にも、駅の階段の上り下りは極めて苦痛を伴うものです。身体的苦痛に加え、駅員をはじめとして手助けを借りる際の心理的苦痛なども伴なうこともしばしばです。

 自由に移動が可能な交通アクセスとは言い難い実態は、誰しも自宅や職場の周辺を見回しても断言できると思われます。ちなみに、全駅数9512駅のうち、バリアフリー化が実現しているのは2953駅にとどまります。