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2007.09.28

新聞で読む人権
2007年9月

「ネットカフェ難民」に国がはじめて実態調査

  • 2007年8月15日 日本経済新聞 大阪 「ネットカフェ難民」初調査 住居なし・日雇い仕事の若者急増

 「ネットカフェ難民」という言葉に風評被害が生じているという、ネットカフェや漫画喫茶から抗議の声が起こるような状態にまで「ネットカフェ難民」の存在が知られるようになりました。

 住居を失い、失業や不安定な収入状態に陥ってしまった結果、24時間営業のネットカフェや深夜営業の漫画喫茶などで、夜を過ごしている人たちを指して使用されている言葉です。

 「ネットカフェの利用者」イコール「住居を失った人」とは限りませんが、寝泊まりに利用する人たちの中に、家を失い、仕事を失い、また就業していても不安定な収入状態にある人たちが相当数含まれていることは、民間のホームレス支援団体の調査や、マスコミの報道を通じて明らかになってきています。

 今回はじめて国が、この実態に対して調査をおこない、その調査結果も既に明らかになっている状況なので、結果をふまえ課題も明らかとなってきています。

 国の調査は、正式には「ネットカフェ難民調査」ではなく、「住宅喪失不安定就労者等の実態に関する調査」と言い、「第1次調査」「第2次調査」「生活・就業実態調査」の3つで構成されています。

 第1次調査は、インターネットカフェや漫画喫茶などの店長や店員に対して、電話によりオールナイト利用者数のアンケート調査をおこないました。今年6月に実施され、1173店舗が回答に応じています。

 一方、第2次調査は、調査対象店舗数を絞り込み、その対象店舗の利用者に対して、アンケート用紙を配布・回収する手法により、87店舗において1664人の利用者が回答を寄せています。2次調査のアンケート項目は6項目で、1.性別 2.年齢 3.オールナイト利用の頻度 4.オールナイト利用の理由 5.ふだんの仕事の有無 6.現在の仕事の形態、を尋ね、今年6月下旬から7月上旬にかけて実施されました。

 「生活・就業実態調査」は、東京23区と大阪市内に限り、「オールナイト利用者のうち住居を失っている者」に限り、個別面接により29項目の調査項目を尋ねる形態でおこなわれました。東京では300人、大阪では62人の計362人が回答しています。

 第1次調査の結果においては、推定値ながらオールナイトでの利用者概数は、全国で約6万900人、週のうち半分以上利用する常連客の概数は2万1400人と弾き出されました。

 第2次調査では、調査に応じた1664人の利用者から、いくつかのことがらが判明しています。

  1. オールナイト利用者の8割ちかくが男性(77.9%)。
  2. 利用者の半数(51.2%)が20歳代である一方、40歳以上も15.1%存在している。
  3. 利用者の1/3以上(37.9%)が、「週に3-4日程度」もしくは「週5日以上」利用し、常連化していること。
  4. 利用者の7.8%が「現在、住居がなく寝泊まりのため利用」している。
  5. 仕事をしている人が、約7割(69.2%)いる一方、仕事をしていない人が12.5%存在している。
  6. 仕事をしている約7割の人のうち、「派遣」「アルバイト」「パート」「契約社員」などが3割(32.2%)を占める。

ことなどが判りました。

 さらに、この第2次調査の結果を元にした全国の推計値も明らかにされています。全国推計値では、オールナイトで利用する人のうち「住居喪失者」は全国では約5400人、その内、仕事をしながらも住居を失っている「非正規労働者」が約2700人存在していることが推計されています。

 インタビューによる「生活・就業実態調査」では、東京と大阪で362人が回答していることを記しましたが、集計では「帰宅困難者」を除外し、「住居喪失者のみ」(東京224人、大阪41人)について報告されています。この調査集計では、東京・大阪と別集計になっており、報告書のうち何点かを提示しておきます。

  1. 住居喪失者の年齢では、35歳を線引きにした場合、東京では若年層よりも中高年齢層が多く(63.8%)、大阪ではほぼ同数に二分されています。
  2. 学歴では、東京(83.9%)、大阪(83.0%)と、ともに高卒以下が8割以上を占めています。
  3. 住居喪失の理由では、東京では「仕事を辞めて家賃等が払えなくなったため」が第1位(32.6%)、大阪では「仕事を辞めて寮や住み込み先を出たため」が第1位(43.9%)となっています。
  4. 住居を失ってからの期間では、東京では半数以上(54.4%)が1年以上を占め、なかには5年以上(11.6%)、10年以上(13.8%)という人たちが存在しています。大阪においても4割ちかい人(39.0%)が住居を失ってから1年以上の人たちでした。
  5. 住宅を確保するための問題点(複数回答)としては、「アパート等の入居に必要な初期費用(敷金等)をなかなか貯蓄できない」ことが大きな位置(東京66.1%、大阪75.6%)を占め、加えて「アパート等に入居しても家賃を払い続けるための安定収入が無く不安」(東京37.9%、大阪58.5%)が次いで多い問題点となっています。
  6. 「もし、ネットカフェや漫画喫茶がなかったら寝泊まりする場所をどうしていたか」(単一回答)では、「路上(公園・河川敷・道路・駅舎等の施設)で寝ていた」(東京29.0%、大阪19.5%)と、「ネットカフェ・漫画喫茶等以外の深夜営業店舗を利用して寝ていた」(東京24.6%、大阪31.7%)の2つが大きな位置を占めています。

 今回の調査報告書は、まだまだ続くのですが、この調査での課題や問題点も大きく浮きく浮かび上がっています

 まず第1には、ネットカフェ・漫画喫茶等の常連利用者における「住居喪失者」の数が全国推計で約5400人いるとされている点です。この数値は、あくまでも「ネットカフェ」「漫画喫茶」の常連利用者を通じて推計したものです。この中には、深夜営業のファミリーレストランやファーストフード店などは除かれています。また友人宅を転々としていたり、路上での寝泊まりが主たる人たちは「常連利用者」ではありません。このことから判断しても、全国に約5400人いる「住宅喪失者」とは、「ネットカフェ等の常連利用者のみ」の数値であり、極めて対象を限った「住宅喪失者」といえます。今年1月に発表された「ホームレスの実態に関する全国調査」の報告書では、全国にホームレスは約1万8500人とされています。この数値には、ネットカフェ等の常連利用者や、深夜喫営業のファーストフード店などでの寝泊まりしている人は省かれたものであることは間違いありません。この2つの調査を重ね合わせると相当数の家を失った人(ホームレス)が、両調査の外に存在していることが容易に想像できうるといえます。

 第2には、日雇いや派遣で働いている人が多い点です。履歴書を書くにも住所欄が埋められないことと、日払いでないと生活が出来ないこととが、相矛盾しながらも負の連鎖の悪循環を構成しています。「労働者派遣事業報告書」(厚生労働省)では、既に派遣労働者は200万人を超えています。うち「スポット派遣」と呼ばれる日雇い派遣の数は、推定で100万人ちかく存在しているという報告もあります。また、派遣そのものが禁じられている「警備」の日雇い労働者に、さらに「建設」「清掃」などを加えると、生活保護基準以下の「ワーキングプア」の約2/3を占めるという民間やNPOの調査結果も報告されています。

 不安定で且つ低賃金により住居を失い、それ故に住居の確保の展望が見えないという現実が明らかになっています。住宅保障と生活保障とを総合的に取り組む行政窓口の設置により、まず生活保護の受給や、仕事をしながらの併給措置が早急におこなわれる必要があります。さらに、不安定なスポット派遣を「派遣法」の名のもとに野放しとしている国政の怠慢と、労働行政の追随とに一日も早く終止符が打たれることが望まれます。