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2007.12.17

新聞で読む人権
2007年12

日ビックイシュー販売員にマフラーを

  • 2007年11月6日 朝日新聞 大阪 マフラーにエール込め 甲南女子中生、ホームレスに贈る

 山谷 釜ケ崎 新開地、日雇い労働者のまちとして名を馳せ、「オリンピック」「万国博覧会」「東洋一の地下街」などの大型工事が終了するとともに、過剰労働人口としての「仕事のあぶれ」により、寝泊まりするドヤの宿泊費も事欠き、路上などでの野宿して日を過ごす。こうした姿を、世間の多くの人々はホームレスを指すイメージとして定式化されてきたと思います。

 バブル経済崩壊後の「失われた10年」と称される長期不況が過ぎると、ホームレスと呼ばれる人たちは、昨日まで様々な業界の様々な職種に携わっていた人たちであることを知り、身近な存在であることの実感が募りはじめます。

 しかし、同時期に経済界は「新時代の日本的経営」(1995年・日経連)を発表し、政界は小泉内閣による改革=自己責任論が大きく取り上げられ、その結果、ホームレス=自由人=怠け者、との「負のイメージ」も幅をきかせるようになります。

 2002年に成立した「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」は、ホームレスとは「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者」(第2条)と、極めて狭隘に対象者を規定されています。そのため、仕事を失った人々、不安定の典型ともいえる請負、派遣、パート労働者などと、一方で人減らしによる労働密度と成果主義賃金を押し付けられ長時間労働に苦しむ正規労働者との分断・対立の労働者の構図の中では、ホームレスの人々は隅に押しやられ、日本社会の中でも小さな位置に置かれているといえます。また、根強い自己責任論はそれに拍車をかけているともいえます。

 自らの意志でホームレスを選択した、或いは様々なしがらみからの逃避として自由を求めてホームレスになっているというホームレス自由意志論の存在です。

 前年の自立支援法の制定により、翌2003年に実施された全国調査においては、公園や河川敷などに寝起きする野宿者の数は、2万5296人を把握することができました。そして、その多くの人々が中高年齢層であり、それまで日雇い労働などの不安定な仕事に従事していたり、製造業やサービス業などの住み込みや寮生活をしていた人々が、不況やリストラにより仕事を奪われ、その結果、住居も奪われことが判明してきました。

 更に、仕事の喪失が住まいの喪失に直結する要因には、主として低学歴であり、雇用地位においても低い立場にあり、90年代の雇用環境の激変の波をもろに被り、日本社会の個人主義化の傾向が家族の解体に波及していることなどの背景も明らかにされてきました。

 つまり、決して彼らは、自ら望んでホームレス生活を選択したり、自由を満喫するために野宿しているのではないということが明らかになりました。

 こうした野宿生活を強いられている人々の存在を知り、自立への取り組みを支援していく中学生たちの取り組みが報じられています。週に1回の総合学習の授業に「命と職業」をテーマに、野宿生活をしている人々の学習を積み重ね、釜ヶ崎への現地訪問も行った中学生たちは、支援の方途を模索しはじめます。そして、野宿者たちの自立への取り組みのひとつである「ビックイシュー」の販売活動を知ります。

 一冊300円で販売して160円を販売員が手にする仕組みをもつビックイシューの活動はイギリスに端を発する活動で、日本では2003年9月からスタートしました(ちなみに本家イギリスでは1991年に始まっています)。

 中学生たちは、彼らの活動に共感するとともに、冬空に向かう季節に街頭販売を続ける人々に、手作りのマフラーを贈ることにしました。ホームレスに対する世間の冷たい視線に対し、中学生の子どもたちが、応援のまなざしを向けていることをマフラーを届けることで伝えています。