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2008.01.28

新聞で読む人権
2008年01

児童扶養手当は、母子家庭の命綱

  • 2007年12月4日 日本経済新聞 大阪 夕刊 母子家庭 手当は命綱 平均年収、一般の4割未満


 37歳になる池田かおりさん(仮名)は、5年前に離婚し、高校生から小学生までの6人の子どもを育てるお母さん。仕事は歩合制の営業で、うまくいくと月収は15万円程度になるが、不調だと6万円台のこともあるとのことです。

 池田さんは、児童扶養手当がなければ、母子家庭の7人家族では、生活が成り立たっていかない実情を語っています。

 児童扶養手当がつくられたのは、元来、夫との死別による寡婦の場合には、母子福祉年金が支給されますが、生別母子家庭の場合には何もないことにより制度化されたもので、その制度趣旨には、児童の健全育成が謳われているものです。

 この児童扶養手当が、今春4月より、受給開始から5年を超える母子家庭に対して、最大半額分を減額することが決められており、児童扶養手当を生活の支えの一部としている多くの母子家庭にとって不安が増大しています。

 既に、児童扶養手当は、2002年8月より、年収に応じて最高4万1720円(これを「全部支給」といいます。)と、4万1710円から9850円までの10円刻み(これを「一部支給」といいます。)での減額が実施されています(この額は物価スライド制のため、支給額は固定されたものではありません)。

 これを裏付けるため、2002年11月には「児童扶養手当法」の改正がおこなわれ、(以下は大阪府内の場合での年収シュミレーション)「全部支給」の年収は130万円以下、「一部支給」の上限は361万6000円、それ以上の場合には支給されていません。

 さらに国は、児童扶養手当の支給対象を減らすために、2003年7月に「母子家庭の母の就業に関する特別措置法」を制定し、就業を促進し「自立」することにより、児童扶養手当をはじめとする「福祉」からの脱却の施策を推し進めました。

 しかし、これらは功を奏していません。

 なぜならば、日本の母子家庭の母親は、世界に類を見ない高い就業率83.0%(2003年厚生労働省「全国母子世帯調査」より)と高く、働いている人に対して、更に「働け」と言っている無理難題の特別措置法なのですから。

 母子家庭の母親の就業率83.0%が、どれくらい驚異的な数値なのかに少し触れてみます。

 総務省「労働力調査」による平成18年通年報告に基づくと、労働力人口(15歳以上人口)は、約1億1026万人です。うち、就業している人は6376万人、失業している人は274万人となります。就業率は57.8%ということになり、労働力率(失業者を含めると)は、60.3%です。

 同じデータにより、女性だけに特化すると、労働力人口は5691万人、就業者2645万人、失業者106万人が存在し、就業率は46.5%、労働力率は48.3%ということになります。

 母子家庭の母親のみの数値で見ると、約7%の失業率が存在しています(2003年厚生労働省「全国母子世帯調査」)。就業率の83.0%が驚異的ですが、母子家庭の母親の労働力率は、単純合計すると、90.0%ということになります。世界に類を見ない数値という表現が決して大げさではないことが理解されると思います。

 これだけ働いている母子家庭の母親に対して、国は児童扶養手当を切り、「もっと働け」と、「自立」を「支援」していくという不可能とも言える政策を進めているのです。

 知人の母子家庭の母親の事例ですが、早朝に牛乳配達の仕事をし、帰宅し子どもの弁当を作り、その後、スーパーマーケットのパート労働をこなし、夕方には買い物と夕食の用意をし、子ども達との夕食後には、飲食スナック店で接客のアルバイトで働くという1日を続けているお母さんがいます。「ダブルワーク」「トリプルワーク」という働き方ですが、2つも3つも仕事をしながらも、基本は時間給であり、1日8時間を超える労働でありながら、彼女の年収は約200万円です。

 彼女の例を裏付けるかのように、2007年度版「母子家庭白書」を見ると、母子世帯数は122万5400世帯(これは5年に1度実施される2003年の「母子家庭調査」の数値)、平均所得は、233万4千円(2005年、この収入には「生活保護費」も「児童扶養手当」も含まれています)で、全国の全世帯平均年収580万4000円(2005年「国民生活基礎調査」)と比すと、約4割の収入にすぎません。

 働いている母子家庭の母親の実に49%が、臨時もしくはパート就労で、常用雇用は39%に下がっています。前回調査では、「臨時・パート」が38%、「常用雇用」が51%を示していました。

 児童扶養手当の受給者は増えつづけ、2007年2月には98万7450人と過去最大の数となりました。そして当然の結果かもしれませんが、母子家庭の8割が「暮らし向き」について「苦しい」(「大変苦しい」53%、「やや苦しい」27%の計)と回答しています(厚生労働省2005年「国民生活基礎調査」)。

 こうした数値からも、現在の児童扶養手当が母子世帯にとっては、大きな生活の支えになっていることは明らかです。児童扶養手当を半減する施策自体が、矛盾した制度変更であることは自明です。

 政府・与党内にも、あまりの制度設計の無為に動揺も生まれ、当面、半額削減策の凍結を打ち出しています。

 しかし改悪実施の先延ばしではなく、母子家庭の深刻な実態に対して、非現実な半額減額の制度そのものの改正が求められているといえます。