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2008.02.13

新聞で読む人権
2008年01

職場のいじめ パワハラ8割、10月にはパワハラ自殺に初の労災認定判決

  • 2007年12月17日 産経新聞 大阪 パワハラ最多8割 大人社会も陰湿」


 社団法人日本産業カウンセラー協会が、昨年度に引き続き「職場のいじめ」に関するアンケートを職場の労働者へのカウンセリング業務に携わる産業カウンセラーを対象に実施しました。

 昨年のアンケートでは、産業カウンセラー100人に対しての調査でしたが、今回は440人の産業カウンセラーから回答を得ています。

 産業カウンセラーとは、主として働く人たちに対して、心理学的手法により、仕事や生活の問題などの解決援助をおこなう専門職です。

 古くは、集団就職で都会に出てきた若者たちへの相談が中心的な活動でしたが、今日ではメンタルヘルスやキャリア開発の援助などに重点が移ってきています。

 その産業カウンセラーたちがアンケート回答をしている「職場のいじめ」は、昨年79.7%、今回は80.5%と、2年連続でほぼ8割の産業カウンセラーが経験しているという高いものでした。

 日本産業カウンセラー協会が、昨年12月12日に発表した報告書に基づくと、「職場のいじめ」の内容は「パワーハラスメント(職権による人権侵害)」が最も多く78%、次いで「人間関係の対立・悪化に起因したいじめ」が59%、「仕事のミスに対するいじめ」44%、「セクシャルハラスメント」36%、「ノルマ未達成に対するいじめ」26%と続いています(%はすべて複数回答)。

 具体的には、「病気と思われる事に対する差別的発言と態度。『とろい』『仕事が遅い』から、指導や指示もなく、人間的な否定を受ける。仕事を与えない、無視するなど。職場の他の社員に対して、無視しろと言うような表現で促すなど。」

 「障害をもった人に対して『一人前に仕事ができないから周りに負担がかかる、迷惑』『手帳がもらえるなら、働かずに国のお世話になったら』などの発言が上司から続けられ、退職に追い込まれた。企業のみならず、学校や公的機関で起きている。」

 「有名大手企業内において、メンタルヘルス相談を受けている従業員に対して『精神的虚弱で組織活動には不適切』とのレッテルを貼り、人事部門を含む管理職層がその者に対して差別を行なっている。それを承知している社員は社内のメンタル相談は受けず、密かに外部の相談窓口に通うという実態がある。社内の啓発、環境改善が急務であるが、会社全体が『建て前の形式的メンタル教育』を徹底しているだけで、現状では改善は見込めないという異常な状況にある。」などと、経営者や上司から、部下や弱者へ差別といじめを利用して職場排除を目的としたものが目立ちます。

 また「いじめはどんな形態で行われて」いたか?という設問には、「罵る・怒鳴る・威嚇する」との回答が最も多く68%、次いで「無視・仲間はずれ」54%、「嫌がらせ」50%、「侮辱・無礼な身振り」38%、「中傷」37%、「不快なメッセージを残す」33%となっています。

 いじめの形態での具体的記述には「『あなたが仕事を続けるならば同部署の全員が辞めます』というメッセージを上司を通じて伝える。」や、労働条件の一方的変更、評価や賃金の査定、降格などが報告されています。

 この報告の典型的な事実として、妻と幼い2人の子どもを残し首つり自殺した男性の死が、上司のパワーハラスメントによるものとの判決が下されました。

 昨年10月15日、東京地裁は、製薬会社「日研化学」(現:興和創薬)の静岡営業者に勤務していた営業担当社員(当時35歳)の2003年3月に首つり自殺したのは、勤務先(静岡営業所)の上司である係長の暴言やいじめなどのパワーハラスメントによるものとし「労働災害」と認定、静岡労働基準監督署に対して遺族補償給付の不支給処分の取り消しを命じました。

 この裁判は、自殺した男性社員の妻が2002年2月に労災申請を行いましたが、静岡労働基準監督署が2004年11月に申請を退けたために、処分取り消しを求めた訴訟でした。

 この男性は1997年から静岡営業所に勤務し、2002年4月に新たに赴任した上司の係長から、何度も暴言を受け、この年の12月頃から適応障害やうつ病を発症、翌3月、静岡県内の公園で首つり自殺しました。

 判決ではパワーハラスメントの認定に、男性の残した8通の遺書が、事実認定に大きな役割を果たしました。遺書に残された暴言では、「存在が目障りだ、いるだけでみんな迷惑している。お願いだから消えてくれ。」「車のガソリン代がもったいない。」「どこに飛ばされようと仕事をしないやつだと言いふらしたる。」「おまえは会社を食い物にしている、給料泥棒。」などと暴言の数々が残されていました。裁判長は、「心理的負荷は、人生でまれに経験する程度に強度だった」と指摘し、自殺と暴言との因果関係を認めました。

 悲惨な事件であり、悲しいかな今日の日本の労働実態や職場の現実なのですが、この判決は画期的ともいえるものです。

 これまで上司の暴言やパワーハラスメントは、労働災害においては「指導の範囲」と認定され、不支給と除外されてきました。過去においてパワーハラスメントを認めた判例においても、主たる要因は長時間労働とするもので、パワーハラスメントは副次的要因とされてきました。東京地裁判決では、パワーハラスメントを主勝因として労災を認めた初めてのケースといえるからです。

 産業カウンセラーへのアンケートにおいても、この東京地裁判決は取り上げられています。

 パワーハラスメントの防止対策として、「管理職研修を含む企業内教育」の必要性を87.0%の産業カウンセラーが挙げています。また、日本産業カウンセラー協会がこの設問回答へのコメントとして、「過重労働・働き過ぎの是正」と「企業文化のあり方の是正」が必要との防止策を挙げた産業カウンセラーが、企業内で従業員として携わる産業カウンセラーよりも、外部契約で業務に携わる産業カウンセラーの方が、それぞれ10ポイント以上高いことを強調しています。

 企業外部の産業カウンセラーの方が、より事態を深刻に受け止め、且つ、実情を正確に把握している点から見ても、企業外の視点を取り入れることが、会社風土の問題点の洗い出しにつながることを指摘しています。

 人権侵害の被害者は、ある特定の限られた人びとにのみ降りかかるものではありません。今日の日本では、社会生活のあらゆるフィールドで、被害者層そのものが増殖させられています。そして、社会生活の最も大きなフィールドともいえる職場において、「死」と隣り合わせの鋭い刃により、人である尊厳が踏みにじられ続けています。