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2008.08.28

新聞で読む人権
2008年06月

社会関係からの排除が、貧困の連鎖を生む国

  • 2008年5月21日 毎日新聞 夕刊 大阪 貧困が貧困を生む国 ネットカフェ生活者ら100人調査


 「ワーキングプア」という言葉が大きく取り上げられるようになったのは、NHKが放送した2006年からのことでした。働いても働いても生活が成り立たない人びとの存在の根幹には、自己責任ではなく、働く人の1/3を超える非正規雇用の拡大を中心軸に、そこに海外との企業競争激化や、地方格差と呼ばれる地方の衰退が背景をなしていました。

 翌年には、「ネットカフェ生活者」「ネットカフェ難民」という言葉が、マスコミ等で取り上げられます。住居を失い、失業や不安定な収入状態に陥ってしまったために、24時間営業のネットカフェや漫画喫茶などで、夜を過ごしている人たちを指して使われる用語でした。

 けっして、ネットカフェ等の利用者のすべてが、住居を失っているのではないことは当然ですが、民間ホームレス支援団体の独自の調査やマスコミ報道により、利用者のうち相当数が、住居を失い、仕事を失い、或いは就業していても不安定な収入や過酷な労働状態にあることが伝えられていました。

 2007年6月には、国もようやく重い腰をあげ、国の調査として、いわゆる「ネットカフェ難民調査」を実施、ネットカフェ等の常連利用者の内、住居喪失者の全国推計概数を、約5400人と発表しました。

 ほぼ同時期、2007年6月から12月までの半年間、NPO「釜ケ崎支援機構」が、大阪市の委託を受け、大阪市内や高槻市などのネットカフェ、漫画喫茶、ファーストフード店などの深夜営業店の利用者や、野宿経験者ら100人から、聞き取り調査を実施しました。

 聞き取りに応じられた100人は、1.ネットカフェ等を利用している人48人と、2.野宿をしている人52人の2つのグループにわかれます。

 ネットカフェ等で聞き取った48人の内14人が、住居喪失者でした。

 また、野宿をしている52人は、更に2つのグループに分類されます。

 ネットカフェ等を利用していたが、その後、野宿に至った人・28人と、ネットカフェ等を寝泊まりに利用した経験は持たないが、野宿をしている若者・24人の2つのグループです。

 ですから、全体100人中、住居を失っている人は、合計66人となっています。

 この66人の住居喪失の人たちを、更に詳しく見ると、さまざまな背景が浮かび上がってきます。

 66人の内13人が、働いているにもかかわらず、日雇い派遣や非正規雇用であるため、家賃が払えなくなり、住居を喪失しています。割合としては2割を占めています。

 また、失職と住居喪失が同時となった人が1/3・23人います。この23人の人たちは、住込み派遣、社宅付き期間工、住込みの新聞配達員など、職種はさまざまですが、失職すると住込み先を退出しなければならない点で共通しています。

 ヒヤリングに応じた100人中、66人までもが住居を失った背景には、派遣労働、アルバイトなどの非正規雇用であることや、またかつて正規労働者であっても、住込みの現業労働を繰り返し、失職と住居喪失とが直結する労働形態の人たちであることを明らかにしています。不安定就労と野宿とは密接に結びつき、そこには「負のスパイラル」とも言うべき相関関係が存在しているといえます。

 「負のスパイラル」をヒヤリング内容を集約して記述すると、日雇い派遣の人の場合には、「仕事」がある日と無い日が存在する不安定の典型と、かつ劣悪な労働条件が見えています。

 住込み派遣の場合も、派遣先と派遣元との関係で、いとも簡単に労働契約が違法に終了され、労働者は置き去りのまま、仕事と住居を失っています。

 期間工の場合にも、いわゆる「クリーニング期間」つまり労基法に基づく有期労働契約の上限3年以内のため、企業は3年に達しないよう「解雇制限法理」の適用を逃れるため、最長2年11ヶ月までに解雇してしまいます。その時に「社宅完備」の謳い文句での雇用が、雇用期間の終了という失業と住居喪失という住所を持たない状況の二重の苦痛を負わされてしまいます。

 つまり、ネットカフェ難民と野宿者は、その間に、「住居喪失」という要因を挟んだ形で、野宿に向かう通過点として存在し、ホームレス予備軍を形成しているともいえます。

 更に、ヒヤリングに応じた人たちには、その生育歴における困難と、社会から阻害された姿も投影されています。

 両親の離婚を契機として、家族崩壊や、ひとり親や祖父母の養育など幼少期の経済的困窮を抱えたケース。家族の借金や、家族の蒸発、あるいは家族揃って食事をした経験を持たないなどのケース。児童擁護施設の入所経験者も5人、児童自立支援施設の入所経験者が2人存在していたことも看過できないことがらといえます。家族関係の崩壊により、援助者を持たず、また友人関係も希薄なケースも散見されます。

 また、調査協力者100人の人たちの学歴構成においては、中卒もしくは高校中退者の割合が、35歳未満では40%、35歳以上では42.8%と、低学歴に偏っています。

 住居喪失と不安定就労形態、また、その生育歴と家族関係、学歴構成などの密接な関連性と連続性が、この僅か100人の聞き取りにより、社会的な関係からの排除を際立って浮かびあがらせる調査報告となっています。