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2009.07.24
書籍・ビデオ案内
 
Human Rights 2009年6月号(NO.255)

注視される日本の刑事司法制度

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 シリーズ いっしょに動こう、語りあおう 第18回

大阪府内の青少年会館をめぐる厳しい情勢

池田 一男(いけだ・かずお 大阪こども・青少年施設等連絡会 事務長)

1、大阪府内の各青少年会館の情勢

(1)厳しい予算措置等

大阪府の「財政再建プログラム」により、大阪府内の青少年会館をめぐる情勢は大変厳しくなってきました。2009年度から、各青少年会館に事業費補助として出されていた「地域青少年社会教育総合事業」がなくなりました。これにともない府内の青少年会館の事業費が大幅にカットされています。事業費として、府補助金分、またはそれに近い金額を減額した館が大半をしめています。

個別に見ていくと、茨木市は、税収減対策として旧同和地区にある3青少年センター(豊川、総持寺、沢良宜)をいのち・愛・ゆめセンターに統廃合することを突然打ち出しました。新聞報道にもありましたように、大阪府知事の承認をえないままでの、廃止決定です。府との調整をする必要から、3月議会に提出できず、6月議会に提出予定になっています。

このような方針を打ち出したことは、3青少年会館が実施していた諸事業の評価があってのことではありません。青少年センターがもっていたミッションを他部署で実施するということでもなく、新しい市の青少年施策の提示もないままでの廃止決定です。利用者への説明会も、3月になってから急遽実施しただけで、それも、3地区を1日でまわるというものでした。「説明会」のための説明会でしかありません。予算措置も3青少年センターで、月1回程度事業を実施できる程度の予算です。後は、貸館にするというものです。これで、「予算措置をした」といっているのです。大阪府が補助事業を廃止したことが最大の統合の理由だと思われます。

これまで茨木市の3青少年センターでは、居場所として多くの青少年が利用していました。また、多くのサークル(青年の太鼓、保護者の子育てサークル等)が青少年センターを利用していました。この利用者に、一体どうしろというのでしょうか。本来、大阪府の補助金があったから事業をしていたのではないはずです。

一方、寝屋川市は、NPO法人「和(なごやか)」(教師・行政職退職者でつくる団体)に委託されることに決まりました。事業予算は、ほぼ前年度どおりでの委託ですが、地域に精通して長年そこで勤務していた職員はいなくなりました。また、池田市も、今年度10月を期して、民間委託されることになりました。池田市の場合も、大阪府の補助金カットがひきがねとなってのことです。

ところで他市町を見てみると、昨年度並みの事業費が予算化されたところは、豊中市、東大阪市、富田林市、松原市、貝塚市です。他の市町は、府の補助金分カットしての予算、または、それに近い額の減額になっています。減額の多くは、報償費であり、各青少年会館での講師謝礼に影響がでてきそうです。特に厳しいのは、岬町です。年間数十万円の予算しかつきませんでした。

ただ、予算措置ができても、多くの青少年会館は、人員減になっています。半数になった館もあります。人数的に同数でも、常勤職員が非常勤や再任用職員、アルバイトになっている館も多くあります。

(2)大阪こ青連の存続が

大阪府内の青少年会館をめぐる情勢が厳しくなることに伴って、青少年会館を束ね研修や交流を実施していた大阪こども・青少年施設等連絡会(大阪こ青連)も、現在、存続が困難な状況になっています。今年度の大阪こ青連は、各市町の分担金のみでの運営になっており、年間予算が130万円しかありません。その中での研修や交流になっています。

府内各館の存続が問われ、大阪こ青連自体も年間予算が乏しくなる中で、今後大阪こ青連がもっていた機能をどのように継続していくか、その見通しを得ることが今年度の課題になります。

2、青少年会館の教育課題を抱える青少年への事業

(1)実態調査から

後の「今後の方向」でも述べるように、これからの青少年会館に求められることは、私としては、さまざまな「課題を抱える青少年」への支援、特に居場所や相談などの事業が、これから発展的に行われる事業ではないかと考えています。また、人権尊重という観点から、家庭や学校、地域社会において何らかの「課題を抱える青少年」への支援活動を行うことは、解放子ども会や初期の事業以来、青少年会館が担ってきたミッションではないでしょうか。そのことは、今年2月に開催した大阪こ青連の研究集会での議論からもわかるところかと思います(本誌4月号の齋藤尚志さんの報告参照)。

この点にかかわって、昨年度、大阪こ青連企画・研究部会において、各青少年会館の「課題のある子どもへの取り組み」に関して実態調査を行いました。その結果報告です。その報告から、現在の大阪府内の青少年会館の課題を見ていきたいと思います(調査報告をしてくれた館は、29館です。未回答の部分もあるため合計数が29館にならないところもあります)。

(2)障がい児に関して

まず、障がい児が青少年会館の事業に参加している状況ですが、館事業(教室)に参加している館が21館、学童保育的事業に参加している館が12館、居場所事業に参加している館が14館あります。誰も参加していない館が3館です。このように、多くの館で、障がい児が何らかの形で活動に参加している状況があります。今までの青少年会館の取り組みの継続性が見えます。しかし、ほとんどが小学生の参加です。

一方、障がい児の保護者からの要望については、「受け入れてほしい」という要望があるとする館は16館、ないとする館が10館あります。

各館における障がい児に対しての介助員等の援助体制についてですが、教室事業で5館、居場所事業で3館、学童保育的事業で3館に、介助体制があります。他は、教室事業においては、講師に対応をまかせている館が14館、学童保育的事業においては、職員が対応している館が8館、居場所事業においても、職員対応が11館と、特別の介助体制はほとんどの館ではありません。

続いて、実際の各館での活動を紹介してみます。まず、障がい児への自立支援プログラムに関していうと、特別に障がい児に対して自立支援プログラムを実施している館は3館です。その内容は、社会体験活動、コミュニケーション活動、ムーブメント活動です。自立支援プログラムに限定せず、広く障がい児教育に関する取り組みをみると、他に何らかの障がい児教育に関係する事業を実施している館は、10館あります。その内容は例えば、点字、手話、車いす体験、アイマスク体験、車イスハンドボール、白杖体験等です。このような点からみて、各館は「人権」に関する取り組みをミッションにしていることがうかがえます。

なお、障がい児の保護者組織に関して、利用している障がい児の保護者が組織化されて、活動をしている館は、自立支援プログラムを実施している館と同じです。このような館では、定例的に保護者会を開催し、子どもの様子の意見交換や研修をしています。また、保護者会として、館のイベントに協力することもあります。

(3)不登校児童に関して

府内の青少年会館における不登校児童の利用に関してみると、何らかの関わりで、「利用している」と回答したのは14館、「利用していない館」と回答した館が16館です。利用の仕方としては、居場所として利用している館が8館、教室事業に参加しているのが8館、館のボランティアとして参加しているのが3館あります。また、利用している不登校児童に対して何らかの支援を行っているのは5館で、後の館では、現状ではまだ何も取り組んでいない状況にあります。なお、実施中の支援の中身は、相談や居場所作り活動、学習活動です。

ちなみに、大阪市内の青少年会館が「ほっとスペース事業」などの形で、これまで不登校の子どもを中心とした「課題のある青少年」への支援を行ってきたこと。また、大阪市では、2007年3月末で青少年会館が廃止された後も、この「課題のある青少年」への支援事業そのものは継続され、全市展開していること。そして現状では、旧青少年会館の施設など利用して、この支援事業を行っているケースもあること。このことをあわせて指摘しておきます。

(4)家庭に課題がある等の子どもに関して

家庭に課題がある等の子どもへの取り組みは、何らかの形で「実施している」と回答した館が11館あり、「していない」と回答した館が18館あります。何らかの形で「している」と回答した館は、かつての解放子ども会や、初期の青少年会館事業以来のミッションが継続されていることと考えられます。

実施している館の取り組みの中心は、相談や学校その他の関係機関との連携などを中心に、課題のある子どもへの支援を行っています。例えば、日常的な子どもへの声かけや、子どものつぶやきを拾う等といった聞き取りから、時にはケース会議を開催して、学校その他の関係機関と連携や教育相談を実施しています。

なお、課題をかかえている子どものみを対象として、自立の料理教室(ネグレクトの子ども対象)を開催しているところや子どもクラブ活動を実施しているところもあります。

(5)高校生・青年に関する事業

高校生・青年への自立支援の事業に関しては、実施しているのは10館です。他の館はまだ何も取り組んでいません。実施している館の活動内容は、相談を基本にして、学習会、研修会、ボランティア養成、リーダー研修といったことです。

(6)ひきこもり・ニートに関する事業

実施しているのは5館です。現状では、ほとんどの館は実施できていません。また、実施している館での支援の中身は、相談、ボランティア養成、セミナーの開催、居場所利用等です。

(7)子育て支援に関して

「課題を抱える青少年」への支援の取り組みに対して、何らかの形で「子育て支援」の取り組みをしている館は、28館あります。この「子育て」の取り組みは、府補助金に必須になったこともあって、これまで実施してきたところがほとんどです。その「子育て支援」の取り組みの内容は、例えば子育て中の保護者の交流、子育てサークル支援、各種幼児親子教室、子育て講座、居場所の提供等多岐にわたっています。

しかし、気になることとして、「子育て支援」の取り組みを、主に乳幼児期の親子を対象にしている館が多くあることです。昨今の子育て事情で要望があることは理解できますが、他の機関や施設でも類似の取り組みを行っていることから考えると、青少年会館はもう少し乳幼児やその保護者を対象とした取り組みよりも、それ以上の年齢層の青少年や保護者などを対象に積極的に取り組みを実施すべきではないかと考えます。

3、青少年会館が目指す方向について

以上のような実態調査の結果をみて、解放子ども会や初期の事業以来、今までつちかってきた青少年会館のミッションが息づいている館と、そうでない館の差が歴然としています。残念なことですが、私の印象では、そのミッションが位置づかず、現状では、ただ単なるカルチャーセンターとなっている館があります。

2008年9月号の本誌「ヒューマンライツ」でも問題提起をしましたし、先ほども述べましたが、個人的には青少年会館は、さまざまな「課題を抱える青少年」の居場所、相談及び相談からの事業を中心にすべきだと思っています。また、そのことにあわせて、従来、青少年会館で行ってきた諸事業を、各市町の青少年施策の中でどう位置づけていくか、冒頭で述べたような財政改革の続く中、大阪府内の各青少年会館が今後どう存続するかどうかについては、各市町の青少年施策の中での青少年会館の位置づけがどう具体化できるかにかかっていると思います。

最後になりましたが、当然のことですが、「課題を抱える青少年」の中には、旧同和地区の青少年を含むことはいうまでもありません。