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human Rights132号掲載
連載・部落解放運動は今
辻 暉夫(つじ・あきお 解放新聞大阪支局)

新しい風35

人権情報の発信

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情報化時代の光と影を超えて

 地球的規模で進行する情報化社会。パソコンの普及はマルチメディア社会を生みだし、私たちの暮らしに大きな影響を与えている。先日、NHKラジオである科学者が「この情報革命はかつての産業革命を上回る革命であるという点で、多くの専門家の意見が一致してきている」と語っていた。ワープロさえままならぬ私には、そう言われてももう一つピンとこないのだが、情報化社会が加速的に進んでいるということは実感できる。

 スピーディーに、大量に、安価に情報が入手、発信できるというのが情報化社会の"光の部分"とすれば、人権侵害をはじめとする有害な情報が乱れ飛ぶことや情報の"洪水"に流されてしまいかねないこと、さらにハイテク機器を使いこなせない"情報弱者"の存在などが"影の部分"と言えよう。情報化時代の"光と影"にどう対応していくかは、部落解放運動にとっても重大な課題である。

 部落解放同盟大阪府連生江支部と同和事業促進生江地区協議会が中心となって、この二月一日、インターネット上にホームページを開設した。生江地区は大阪市の北東部。淀川沿いのムラで、約七〇〇世帯。ここから人権情報を中心に発信していこうというわけだ。

 実は生江では三年前にホームページを初めてひらいたという経過がある。部落問題を中心に、障害者、女性、アイヌ、在日韓国・朝鮮人などにかかわる人権問題を主に取り上げていた。しかし、内容が硬すぎたこと、間口を広げすぎたことなどがあって、新しい、興味をひくような情報を次々と発信するのが困難になり、しばらくしてストップしてしまった。多くの人に利用してもらうホームページをつくるのは、そう簡単なことではないことを身をもって味わわされたという。

 しかし、それでもへこたれなかった。北口支部長(大阪府連書記長、中央執行委員)をはじめ情報化に熱意あるメンバーが中心となって、ホームページ再開の準備を進めた。各方面への働きかけが実って昨年一一月、生江解放会館にパソコン二〇台がそなえつけられた。支部と地区協のほか、大阪市人権啓発課、生江地区がある旭区をはじめ都島、城東、鶴見、東成、生野、中央の七区役所、七つの区の人権啓発推進会・人権啓発協議会による「電子情報上での人権啓発のあり方研究会」が昨年発足。これらの団体の協力によってパソコンが購入されたのである。

暮らしに役立つ情報を

 これを機にホームページ再開の機運が高まり、何度も検討を重ねた結果、次のような内容で再スタートすることになった。
 できるだけ多くの人に利用、親しんでもらうために、暮らしに役立つ、身近な情報を多くのせる。同時に人権にかかわる様々な情報を発信する。これらの"情報源"の中心は七つの区が発行している広報紙である。広報紙に掲載されたもののなかから適当な情報を選んでいくという方法だ。もちろん広報紙以外で、特に人権にとって重要な情報は流していくことにしている。

 二つ目は、生江で昨年六月に開局されたミニFM局の番組案内、FM局の宣伝。このFM局も情報化時代に対応すべく、「生江発」のFM放送を始めた。機器購入にかかった費用は約一〇〇万円。支部をはじめ関係団体からのカンパでまかなった。生江解放会館の自主サークルとして三階を借りて活動している。FM局の名称は「ハートフルウェーブFMイコール」。出力が小さいFM局の開設は自由。「イコール」の出力は〇・一ワット、七六・九メガヘルツ。これにダイヤルを合わせると、「イコール」がいつでも聞けるわけだ。放送を聞くことができるのは約五〇〇メートル四方。生江地区全域と周辺地域をカバーできる。DJはボランティアでやってくれる人を公募した。放送の内容は身近なニュース、イベント、人権情報、支部の活動などだ。このFMを聞いてもらうことが、運動の現状を知り、組織の活性化につながっていくのではないかと関係者は期待しているわけだが、まず何よりも聞いてもらうことが第一歩。ホームページにその広報の役割をになってもらおうというねらいだ。会館内にパソコン、FM放送という二つの"情報基地"ができたわけである。

 ホームページは、このほか同じく七つの区でつくった市民劇団「夢の扉」の公演案内と宣伝をになっている。

"情報弱者"をなくすために

 ホームページのほか、力を入れているのがハイテク機器。なかでもパソコンを使いこなせる人をふやそうと試みている。昨年一二月には、パソコンの初心者講習会を三日間ひらいた。パソコンに電源を入れることから始め、誰でもがわかるような内容にした。地区外の人もふくめ四○人が受講した。

 パソコン二〇台のうち、一五台は持ち運びが容易なノート型パソコン。これを使って七つの区役所をはじめ、注文があればどこでも出むく"移動パソコン教室"を来年度にはひらきたいと準備している。

 これらの実務を担当している地区協のYさんは「ホームページの内容をどれだけ魅力あるものにするか、そしてどれだけ多くの人に利用してもらうかが勝負です。さらにパソコン教室をあちこちでひらき、情報化社会にとり残される"情報弱者"を一人でもなくしていくことが大切だと思います」といっている。

 大阪府連各支部のなかで、ホームページを開設しているのは私の知る限りでは四支部だが、準備を進めているところがいくつかあって、情報化は各部落でも着実に進んでいる。一方、大阪府連と各支部をつなぐ情報ネットワークが間もなくできる。大阪府連はこの春までに四七の全支部に同じ規格のパソコンを設置する。このパソコンを使って府連と各支部の情報伝達や入手を行う。

 この大阪府連と各支部とのコンピューターによるネットワーク化について、大阪府連の北口書記長は「支部と府連の情報伝達が瞬時に、正確に、大量に、しかも双方向で行えることによって、運動の活性化、質的発展に大きな力を発揮できるようになる。またパソコンを備えるなどの設備投資にお金はかかるが、支部との連絡に要していた郵便代、電話代などがいらなくなるので、ランニングコストはずっと安くなるという側面もある。いずれにせよ情報化時代に対応していくためには、ネットワーク化は不可欠だ」という。

 産業革命以上の革命だという情報化時代の到来。それが人類の将来に何をもたらすかはまだ定かではない。しかし、それを避けてとおることはできない。
※生江のホームページのアドレスは、http://member.nifty.ne.jp/equal