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human Rights148号掲載
連載・部落解放運動は今
辻 暉夫(つじ・あきお 解放新聞大阪支局)

新しい風51

新しい住宅づくり

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 部落解放運動がかちとってきた物的な最大の成果は、住宅建設を中心とする環境改善であろう。狭い。きたない。古い。共同便所…。差別のために劣悪な住環境を強いられてきた被差別部落の姿は大きく変わってきた。大阪の場合、ほとんどの部落に団地(公営住宅)ができている。全国的にみてもそうだ。しかし、団地建設中心の住環境改善は今大きな曲がり角にきている。

 新幹線の西の拠点、新大阪駅の目の前に日之出地区はある。五、六階建ての棟が一〇いくつ。その一角で今、コーポラティブ住宅の建設が進んでいる。「日之出温泉コープ住宅(仮称)」である。一、二階は公衆浴場の日之出温泉。三、四、五階が住宅だ。この住宅は定期借地権付きのコーポラティブ住宅だ。これは今、全国的に注目されており、大阪の部落では日之出が最初である。この「定借コーポラ方式」とは、一定期間土地を借り、そこに住宅を建てるというやり方。入居者は住宅建設費と土地借用代を負担するが、同規模のマンション購入より二分の一か三分の一ぐらいの費用ですむ。また入居を希望する人が設計段階から参加し、自分自身が好きなように設計できる。コーポラティブ住宅とは、持家希望の人たちが協同でつくる集合住宅のことである。

 大阪府連は昨年「まちづくり運動部」を新設。多様な住宅の供給方法や周辺地域と一体となったまちづくりの研究を進めていこうと取り組んでいる。住民のニーズに合った住宅づくりを検討していくなかでクローズアップされてきたのが「定借コーポラ方式」である。  人口減少―。これは近年、全国の部落に共通してみられる現象だ。特に若年層を中心に部落ばなれの傾向がみられる。なぜ部落外に出ていくのか。まず第一に部落差別から逃避したいという気持ちが根底にある。今日もなお厳しい差別の現実があるからだ。ついで住宅が狭いこと。日之出の団地の場合、一Kから三DKまであるが、三世代同居とか、子どもが大きくなってくると、手狭になってくる。そしてもう一つの理由は、経済的に少しゆとりができて、一軒屋やマンションを買うことができる人がでてきたことがあげられる。こうして日之出地区でも、年度末になると引っ越しブームが起こっている。転校、転勤の時節だからだ。

 人口流出をくい止め、魅力あるまちづくりをどう進めていったらよいのか。日之出支部は四年前、住民参加のまちづくりをめざして「まちづくりビジョン」をとりまとめた。ワークショップを何度もやり、地区内の住環境点検活動、学習会、地区外の住宅見学などを重ねてきた。なかでも住民のニーズに合った住宅とはどんな住宅なのか。これまでの公営住宅(団地)のよい点は数々あるが、それだけではニーズを満たせない。  みんなで頭をひねっていたときに、ちょうど持ち上がってきたのが、公衆浴場「日之出温泉」の建て替え問題だった。この浴場、建設されてから三〇年以上たち、老朽化してきた。ここの土地を所有しているのは(財)日之出会(中田登会長・支部相談役)である。日之出会は、数十年前に有志が提供した土地を管理、運営しており、この浴場と人権文化センター(旧解放会館)が建っている所の土地を所有している。

 支部と日之出会は浴場建て替えをチャンスとして、まちづくりにいかせないかと検討した。そして昨年夏、「定借コーポラ方式」の住宅をつくることが決まったのである。 敷地は四五九 。下に浴場、上に住宅というユニークさ。津本支部長ら支部幹部あげて取り組んだ。コーポラ方式については様々な法的な規則、面倒な手続きがあり、それを一から勉強することから始まった。助成にかかわって、大阪市と交渉したところ、OKがでた。 建ぺい率の関係で建てることができる住宅の数は九戸となった。七四 の三LDKが六軒、八八 の四LDKが三軒。昨年九月、入居希望者の募集開始。建設費用は約二億円。入居者は二千万から二千五百万円を負担し、毎月土地代として七千円から九千円を支払う。借地期間は六〇年。

 「応募者殺到」という風にはいかなかったが、ほどなく九軒の入居者が決まった。八軒は地元の人たち、あと一軒は教育共闘仲間の地区外の人だった。入居者で建設組合が結成された。各住宅の間取り相談、ルールづくりなどなどが建設組合で話しあわれた。当初からコーポラ方式にくわしい良心的なコーディネーターをみつけることもできた。間取りだけでも多様なニーズがでてきた。表西書記長は「自分の住まいを自分で考え、設計するということで、住宅に対する意識が非常に高まったと思う」という。

 建設組合の代表で、支部執行委員のMさん。自身が建設運動推進の実務面での柱として活動してきた。  「この運動にかかわってきた者として、自身が入居するんだという心意気がなければ、うまくいかないんではないかと思って、入居することにしました。今の三Kの公営住宅から三LDKに移るわけですが、自分の希望を間取りに反映できるのがいい。そして何よりも自分たちが力を合わせ、新しいまちづくりに取り組んでいくということ、これが部落の活性化、人口減少をくい止めることにつながるというのが大きいと思います」  津本支部長も「コープ住宅建設を契機に、部落内、外の人たちの交流、出会い、豊かにつながる住民参加のまちづくりを一層進めていきたい」と話す。

 建設中のコーポと道路ひとつへだてて新幹線が走る。騒音の問題もなんとかクリアできそうだ。来年三月に完成予定だ。完成したコーポ住宅は、これまでの団地(公営住宅)建設一本やりだった部落の住宅建設に転換をもたらすことだろう。

 日之出地区以外でも、このコーポ方式をとりいれたところがある。大阪市の西成地区だ。ここは日之出とちがって、土地は大阪市のものである。大阪市と話しあって、OKがでた。公有地を借りて、その上にコープ住宅を建てるという試みだ。来年七月に完成する予定である。

 人口流出。考えてみればこれは部落解放同盟にとって非常に大きな問題だ。大阪でも同盟員が年々減少している。解放同盟の組織の根幹にかかわることだ。新しい魅力あるまちづくりをどう進めていくのかが今改めて問われている。