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human Rights157号掲載
連載・部落解放運動は今
辻 暉夫(つじ・あきお 解放新聞大阪支局)

新しい風60

国際交流とその課題

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 世はボーダレス化、グローバル化の時代。人も、モノも、金も、情報も瞬時にして国境を越える。EU(欧州連合)のように国境そのものを完全になく そうというところもある。いずれにせよ二一世紀のキーワードのなかには、この二つが間違いなくある。

 交通や通信手段の飛躍的な発達は確かに世界を狭くした。しかしモノや情報 がいくら飛び交っても、肝心の人と人との交流なくして真のグローバル化はありえない。インターネットの時代だからこそ、よけいに顔と顔、ヒザとヒザをつきあわせた交流、ふれあいが大切なのだ。

 部落解放同盟大阪府連は昨年秋、全支部に対してアンケート調査をした。各支部の国際交流に関してだ。その結果、これまでに一六の 支部から回答があった。主な結果をみてみると―。

 国際交流を推進するための機関、組織が支部内かもしくは共闘市民団体として存在するところが六支部。この五年以内の国際交流活動の有無については、一二支部が外国視察や海外ゲストの受け入れなどに取り組んできた。このほか日本に来ている留学生や外国人居住者と交流しているという支部もあった。

 国際交流の内容については、継続的に交流しているのが一一支部、海外への視察が九支部、国内での国際交流が九支部、民間団体や自治体が主催する国際交流に参加してきたところが一二支部などとなっている。

 交流している国は韓国、中国、タイ、カンボジアなどアジアに集中しているが、アメリカと毎年交互に教育交流をしているところもある。ボーダレス時代にあって、アジアのなかの日本という視点に立って、まずアジアにおいて反差別・人権運動のネットワークづくりを意識的に進めていく必要があろう。各支部が取り組んでいる交流活動の成果をネットワークの形成につなげていくことが重要といえよう。

 国際交流の様子を少し具体的に紹介してみたい。大阪の南部に位置する和泉市。そこの和泉支部の少年たちがやっていたサッカーがとりもつ縁で韓国の学校と"サッカー交流"に発展。隔年毎に少年サッカーチームが相互にホームステイしている。もう一つ、バングラディシュでNGO活動をしているシャプラニールの招きで毎年訪日しているバングラデシュの人たちを和泉で受け入れ、交流をはかっている。これらの活動を通して部落解放運動の位置を認識したり、青年の活動が活性化してきたという。

 大阪市内にある浅香、加島、平野、矢田の四支部は五年前から中国において教育支援と交流に取り組んでいる。この活動は浅香、矢田両支部が長年、中国からの留学生受け入れに取り組んできた経験を新しい形の国際交流に発展させようとスタートした。四支部は九七年から二〇〇一年までの支援計画をたて、湖南省の農山村に教育支援金を送っている。

 支援金によって二〇〇〇年までに建てられた学校は四校、就学支援の子どもは五一六人にのぼっている。しかしまだまだ足りず、四支部では今夏、現地を再び訪れ、今後の支援、交流を発展させていきたいとしている。一方的な支援ではなく、交流を通して互いに学び、教えあう、高めあう道を追求していきたいと話している。

 大阪マイペンライ(アジア保育・教育交流推進実行委員会)の活動はもう八年目にはいった。タイ、カンボジアなどアジアの農村やスラムの子どもたちの自立を支援する活動を通して、相互理解を深めていこうと一九九三年に設立された。自治労、大阪教組、部落解放同盟大阪府連などがメンバー。毎年、団を組んでタイ、カンボジアを訪れ、絵本を贈ったり、教育支援基金を供出したりしている。両国からも毎年夏、保育士や教育関係者数人が主に大阪を訪れ、部落などにホームステイしながら保育所の視察、交流を重ねている。

 各支部が順に受け入れているわけで、昨年は二つの支部で交流した。カンボジアの幼稚園教諭養成学校の指導者であるケ・ラさんは「日本に初めてきて、学校と地域や家庭との連携など学ぶことがたくさんあった。これをカンボジアの教育改善に活かしていきたい」と話していた。受け入れ側も困難な条件のなかでがんばっている彼女、彼らの姿に学ぶところは多いという。

 大阪府連国際運動部は昨年一一月、まちづくり運動部と共催で四日間の韓国スタディツアーを実施した。韓国のスラムで取り組まれている居住権保障の住民運動に学ぶとともに、経験交流、侵略の正しい歴史認識を深めることが目的で、各支部から合わせて二〇人がソウルを訪れた。

 さらに今年にはいって青年による三日間の韓国スタディツアーが行われた。これは大阪府連青年部、自治労青年部などで構成されている「国際青年年記念大阪連絡会議」が主催したもので、府連青年部の一五人を含め一八人、現地の学生、青年一七人が参加する活気みなぎる交流となったという。

 アンケートの回答によると、多くの支部が国際交流は大いに意義があるとしている。「参加した子どもたちの視野が広がるとともに英語に対する学習意欲が向上した。マイノリティの立場を自覚し、ムラの子としての誇りが高まった」「同じような人権侵害を受けている立場の人たちと交流することにより、解放運動をがんばろうという新たな気もちが芽生えてきた」「国際的視野が広くなった。ボランティア精神の高まりのきっかけになっている」等々の意見が寄せられている。

 一番の課題は財源づくり。海外スタディツアーなどは多くの支部の場合、参加者が自己負担、足らずを支部のお金でまかなっている。国内での国際交流はさほど旅費がかからないので、支部の運動費をつかっているところが多い。しかしいずれにせよ費用をどうひねりだすかが共通の課題となっており、いまのところ妙案はない。国際交流を通して、「世界の水平運動」に発展させたいという同盟員一人ひとりの自覚と誇りが交流促進の原動力だ。それは解放運動の質的高まりと表裏一体の関係にあるといえるだろう。

 もう一つ多かったのは「他支部の交流実践に関する情報を知りたい」という回答だった。大阪府連ではこれに応えて各支部間の交流会を継続的に開催することにしている。

 解放運動は今、後継者づくり、人材養成が重要課題となっている。国際交流によって運動に目覚めたという若者が少なからずいる。国際交流は解放運動の発展にとって不可欠なものとなってきたようだ。ボーダレス時代、解放運動もまた国境を越えていかなければならない。