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2010.07.09
書籍・ビデオ案内
 

部落解放研究186号(2009.07)

子どもの貧困・差別と学力問題

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もくじ

特 集

子どもの貧困と学力問題─人権教育としての同和教育の視座から → 全文PDF

-要約-
 主として経済のグローバル化と新自由主義政策に起因する新たな貧困化に対峙する学力・進路保障をめざす人権教育総合計画の再構築が求められている。小論では、学力保障の観点から、戦後同和教育の取り組みを振り返り、学力論や学力形成論などを中心に、その成果と論点を取り出し、今後の実践的課題を提起してみたい。
桂正孝

部落の低学力─近年の調査からみえてくるもの → 全文PDF

-要約-
部落の子どもの学力保障は同和教育の長年の課題であるが、近年は、部落そのものの構造的変動、社会全体ですすむ格差拡大や消費社会化の影響を受けて、部落の学力不振問題は深刻化している。今、部落では、新たな形で低学力と貧困の世代的再生産がおきつつある。今後、学力保障を普遍的な教育課題としてとらえなおすとともに、部落の生活実態や文化の変容をふまえた学力保障のあり方を検討する必要がある。

高田一宏
資料紹介

PISA調査における日本国内の学力格差問題 → 全文PDF

-要約-
本紹介では、OECDによる国際的な生徒の学力到達度調査PISAにおける学力格差について整理した。①PISA調査参加国すべてで社会経済文化的背景による非常に大きな学力格差が存在している。②日本では、OECD平均に比して保護者の学歴が学力に特に強い影響を与えている。③高等学校の選抜結果が、社会経済文化的背景に強く影響を受けており、その影響は参加国中抜きんでて高い。

若槻健
論 文

和泉市の地域就労支援事業の始まりと今後の課題 → 全文PDF

-要約-
アメリカの金融危機に端を発する経済状況の悪化は、世界中を巻き込みとどまるところを知らず、雇用環境にも大きな影響を及ぼしている。就職困難者等に対し、今まさに、地域就労支援事業の力を発揮すべき時である。二〇〇〇年の秋、大阪府モデル事業としてスタートした和泉市の就労支援事業、その後に実施された無料職業紹介事業は、一〇年と五年の節目を迎え、これまでの事業をふり返り、今後の課題を見出していかなければならない。大阪府も二〇〇八年度からこれまでの地域就労支援補助金を総合生活相談等を含めた四相談事業の交付金化を行い、市町村独自の事業展開を求めている。市町村は、地域就労支援事業でこれまで培ってきた地域就労支援相談をさらに充実させるため、市町村における雇用・労働行政の新たな展開が求められている。

山野正広

イングランド公立学校における拡張サービスの運営と戦略 → 全文PDF

-要約-
 イングランドの拡張学校は、クラスターごとに拡張サービスを提供する形で全国化されつつあり、それに応じた行政組織の大きな再編もおこなわれている。本稿ではそうした動きについて紹介するとともに、一つの公立学校を例にとり、学校の戦略という観点から拡張サービスの提供の意味をみていくことにする。事例としてとりあげるビーチャム・カレッジでは優れた拡張サービスを提供しているが、それが提供される文脈が競争的すぎることから、全体の発展への懸念も残る。

ハヤシザキカズヒコ
レイチェル・ウィンター
研究動向

社会的包摂とキーコンピテンシー―KC2008国際会議の報告を含めて → 全文PDF

-要約-
社会的包摂(social inclusion)は、階級、性、民族・人種、その他の要因で社会的に不利益を被っている人々が、対等に生きることをめざす民主的な社会の実現にとって重要な概念である。これは経済協力開発機構(OECD)などが提唱しているキーコンピテンシー(keycompetency)の中にも含まれている。本稿では、キーコンピテンシーがどのように規定されているかを、OECDと欧州委員会(EC)で概観し、そのうえで筆者が参加した二〇〇六年六月一八〜二〇日にロンドン市立大学で開催された「KC二〇〇八:生活のためのスキル」国際会議で、社会的包摂に関わるコンピテンシーに触れた二つのセッションの様子を紹介し、最後にその課題をまとめる。

赤尾勝己
書 評
金子匡良

編集後記
 子どもの貧困・差別と学力問題を特集テーマに、桂論文では、戦後同和教育が培ってきた「社会権的教育権」論の学力観(「自由権的教育権」論との対比)を継承・発展させる必要、学力形成論の成果と課題、学力・進路保障をめざす人権教育総合計画の再構築が指摘された。
高田論文では、大阪府で実施されてきた一九八九年、二〇〇一年、二〇〇三年、二〇〇六年の学力調査を活用して部落の子どもの学力状況を分析するとともに、低学力の背景や今後の調査のあり方への提起がされている。
資料紹介では、若槻さんにPISA調査で示された日本国内の学力格差と背景を報告書からまとめていただいた。国際的な順位ばかりが紹介され気味だが、こうした点にもっと留意する必要があると考える。
 山野論文は、大阪府和泉市で二〇〇一年から実施されている就労困難者等への就労支援事業、二〇〇四年からの無料職業紹介センター事業等の紹介と今日の課題が示されている。
ハヤシザキカズヒコ/レイチェル・ウィンター論文は、二〇〇二年より開始したイングランドでの「拡張学校」の事例研究としてビーチャム・カレッジを取り上げている。
研究動向では、赤尾さんにOECDとECでのキーコンピテンシー(鍵となる能力)の位置づけ、そして二〇〇六年にロンドンで開かれた国際会議「キーコンピテンシー二〇〇八」の二つのセッションの紹介がされている。
 次回の特集は、二〇〇八年度に完結した『大阪の部落史』を予定している。(N)
執筆者一覧
桂 正孝 (かつら・まさたか)宝塚造形芸術大学教授
高田 一宏 (たかだ・かずひろ)兵庫県立大学准教授
若槻 健 (わかつき・けん)甲子園大学専任講師
山野正広 (やまの・まさひろ)和泉市労働政策課
ハヤシザキ カズヒコ 福岡教育大学講師
レイチェ ル・ウィンター 立命館アジア太平洋大学非常勤講師
赤尾勝己 (あかお・かつみ)関西大学文学部教授
金子匡良 (かねこ・まさよし)高松短期大学准教授