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2010.10.07
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部落解放研究189号(2010.07)

実態調査にみる今日の大阪の部落

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もくじ

特 集

不安定化する都市部落の若年層
2009年住吉地域労働実態調査から → 全文PDF

-要約-
 日本社会全体の不安定化が叫ばれている現在、被差別部落の再不安定化が懸念されている。にもかかわらず、「法」期限切れ以降、被差別部落の実態把握は困難を抱え、なされなくなってきている。このような状況の中、2009年に大阪市の被差別部落、住吉地区において実態調査が行われた。調査の結果、世帯収入の低さや生活保護率の高さとともに、中高年層の雇用が相対的に安定している一方で、若年層で不安定化が進行していること、つまり再不安定化が懸念の段階を超えて進行しつつあることが明らかになった。

妻木進吾
大阪における部落の変化と女性若年層
大阪府連女性部調査から  → 全文PDF

-要約-
 本稿は、2008年に実施された「部落解放同盟大阪府連女性部生活実態調査」データから、①相対的に安定した若い世代の部落外への流出、②低学歴傾向と不安定就労の増大、③部落出身者としての自覚がない割合が相対的に高く、差別認識・被差別体験が少ない、④女性の自己決定に関する意識が薄い、などの若年層の特徴を明らかにした。

内田龍史
部落の乳幼児の実態と保育の課題
大阪チャイルドネットの調査から  → 全文PDF

-要約-
 本論文は、子育てにおける生活習慣と遊びを軸にした子どもの成長に視点をおいて大阪同和保育連絡協議会が行った1985年・1995年調査を引き継ぎ、チャイルドネット大阪の同和保育プロジェクトが中心となって行われた同和保育に関わる調査の報告である。顕著な傾向として、85年・95年調査で示された課題を克服している層とそうでない層への分化、子育てにおける部落問題の課題、保育運動への参加意識の弱まりが見出された。この意味においては、子育てにおける部落問題の現状を正しく保育運動の課題とする必要性が示された。

玉置哲淳
2006年度・大阪府内識字学級活動状況調査からみる現状と課題
現実に合わせて展開する学級の姿が浮き彫りに → 全文PDF

-要約-
 本稿は2006年度末に大阪府内部落の識字学級に対して行った調査の報告である。学習者数は、1990年頃と比べ約1割減で800名弱、学習者のうち約半数は地区外の人あるいは外国人となっている。学習者に合わせた教材・学習形態の多様化が求められ、地域や府内レベルの学級間交流も行われている反面、事業費削減など法や行政上の負の影響もみえる。今後の識字運動の方向を探る貴重な手がかりを提供している。

部落解放・人権研究所 識字部会
論 文
S県K地域における母子世帯の現状  → 全文PDF

-要約-
S県K地域の総合実態調査データ(2007年)から母子世帯の生活状況を概観した上で、母子世帯内部の階層分化について検討した。結果、母子世帯の母親の一般世帯より高い非正規雇用比率、収入の低位性等が確認されたが、収入や雇用形態に学歴による有意差は認められなかった。最後にこの調査結果を批判的に検討し、今後求められる母子世帯調査の視座について議論している。

堤 圭史郎
多言語環境に育つ子どもたちの母語保持伸長と日本語習得(下)
実態調査から見えてきたこと  → 全文PDF

-要約-
 本稿では日本生まれの中国語母語児童63名の読解力調査について報告した。日本で生まれ育ったにもかかわらず、87%が学年相応レベルの読解力を獲得できていない現状が明らかとなった。その一要因として本に親しむ経験の少なさ、内容豊かなコミュニケーションの不足が考えられる。彼らの母語育成を含め、全人的発達を目指した教育が望まれる。

櫻井千穂

紀要188号掲載のびしょうじ論文注(9)についての編集部の見解とお詫び
編集部から―188号特集論文の補充・訂正について → 全文PDF

 
編集後記

 今年度最初となる本号から年3回の発行となるため、判型をB5判に、レイアウトを縦書きから横書きに変更し、各号のボリュームを増やすことを試みた。ご了承願いたい。
 今特集は、大阪府内における各種の実態調査から、部落問題解決の前提となる部落の現状に迫ることを目的としている。また、個別論文も各種の調査をもとにしたものであり、現代社会における様々な問題を浮かびあがらせるものとなっている。
 妻木論文は、2009年に実施した住吉地域労働実態調査から、大阪市内の部落を事例とし、若年層の雇用の不安定化が進行していることを明らかにしている。内田論文は、2008年度に実施した大阪府連女性部調査から、若年層の雇用の不安定化のみならず、彼女らの部落問題意識、女性差別に対する意識の薄さを指摘している。玉置論文は、大阪チャイルドネットにおける同和保育プロジェクト調査から、子育ての状況と子どもたちの生活が多様化している状況を明らかにし、今後の課題を提言している。部落解放・人権研究所識字部会論文は、2006年度に行われた大阪府内識字学級活動状況調査から、現状に即して進化を遂げつつある部落内の識字学級の現状を明らかにしている。
 個別論文では、自治体調査データから、母子世帯の貧困に着目すると同時に、母子世帯内部でのさまざまな階層性・多様性への注意が必要であると指摘する堤論文、紀要188号からの継続となるが、日本国内の外国にルーツを持つ子どもたちの読書力・読解力調査から、読書力の厳しさを明らかにした櫻井論文を収録した。 (U)

執筆者一覧

妻木進吾(つまき・しんご)   大阪市立大学特任教員
内田龍史(うちだ・りゅうし)   (社)部落解放・人権研究所研究員
玉置哲淳(たまき・てつじゅん)   大阪総合保育大学教授
岩槻知也(いわつき・ともや)   京都女子大学教員
熊谷 愛(くまがい・ちか)   (社)部落解放・人権研究所職員
森 実(もり・みのる)   大阪教育大学教員
堤 圭史郎(つつみ・けいしろう)   福岡県立大学教員
櫻井千穂(さくらい・ちほ)   大阪大学大学院言語文化研究科言語社会専攻博士後期課程