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2011.05.30
書籍・ビデオ案内
 

部落解放研究190号(2010.11)

人権教育と道徳教育を考える
就職困難者の就労と生活

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もくじ

特 集 ①

人権教育と道徳教育の関係性をめぐっての問題提起 → 全文PDF

-要約-
 本論文は、人権教育の立場から道徳教育について再検討し、両者の関係性を整理することの今日的意義について述べたものである。日本においては道徳教育と人権教育が対立的に捉えられてきた経緯があるが、現在、国際的に広がりつつある市民性教育の取り組みにおいては、人権教育の視点とともに道徳的価値観や社会的責任感の育成が課題として明確に位置づけられている。道徳教育の理論的・実践的枠組みを一方で参照しながら、21世紀に求められる市民性教育を人権教育として構築する必要性がある。

平沢安政
人権教育の視点から道徳教育を考える
特設「道徳」教育を中心に  → 全文PDF

-要約-
 2008年の学習指導要領改訂の政策的ねらいは、「道徳の時間」を中核とするナショナルな心情訓練と心理操作による道徳教育の強化にある。グローバル化時代の今、なぜ特設道徳を強化するのか。その理由として、1958年の道徳の時間特設での「日本人の育成」というキーワードに着目し、排外的ナショナリズムへの傾斜を指摘する。さらに新自由主義的政策がまねいた現在の社会的危機を、新保守主義で糊塗しようとする教育改革の一環であることを論じる。この内包した矛盾を克服する視座こそ、人権教育にあることを提起している。

桂 正孝
特 集 ②
就職困難者の就労と生活(1)
基本属性、就職相談と就労経験  → 全文PDF

-要約-
 2007年12月から08年6月にかけて、大阪府内各市町村の地域就労支援センターおよび大阪府のJOBプラザOSAKAを利用している就職相談者の実態調査を行った。そのほとんどは就職困難者と呼ばれる人たちであった。この調査結果の分析は、福原(基本属性、就職相談と就労経験の分析)、李嘉永(健康状態と住居を分析)、内田龍史(生活実態と社会的つながりを分析)の3名が分担して行った。これによって、就職困難者が抱える貧困と社会的排除を明らかにし、彼らに対する支援のあり方について議論を深めたい。

福原宏幸
就職困難者の就労と生活(2)
健康状態と住居 → 全文PDF

-要約-
 本稿では、当研究所が実施した「地域就労支援事業における実態調査」結果のうち、健康状態と居住状況について検討した。健康状態に関して言えば、2割強の相談者が、健康状態がすぐれないと感じている。また、医療保険に加入していない人も一定見られ、回答者の4人に1人は、十分な医療的なケアを受けていない。また、住居に関しては、とりわけ中高年相談者の住居は、狭隘であり、住宅設備も十分ではなく、決して快適とはいえない。これらの健康状態や居住状況は、就職意欲に何がしかの影響をもたらしていることが予想される。

李 嘉永
就職困難者の就労と生活(3)
貧困と社会的排除  → 全文PDF

-要約-
 本稿は、地域就労支援事業利用者を対象とした調査から、特に貧困と社会的排除に着目し、彼/彼女らが抱えさせられている困難の一端を明らかにしている。「就職困難者」のうちに重層的な困難を抱えた層を確認できるが、なかでも特に50~64歳男性の貧困と人間関係・社会関係における孤立傾向が特徴的である。また、子ども期の貧困が及ぼす不平等の再生産傾向も指摘できる。従来のハローワークを軸とした職業紹介では就職につながりにくいこれら就職困難者に対し、地域就労支援事業は日々対応しているのである。

内田龍史
論 文
大阪市内各地区における子育ち・子育て運動の現状と課題
青少年拠点施設検討プロジェクトの3年間の取り組みをふまえて  → 全文PDF

-要約-
 2007年3月の大阪市の青少年会館条例廃止から3年間、部落解放・人権研究所「青少年拠点施設検討プロジェクト」では、もと青少年会館を活用した各地区での子ども会活動等の現状把握に取り組んだ。本稿はその3年間のプロジェクトの概要を紹介するとともに、各地区における子ども会活動等、子育ち・子育て運動の課題について検討したものである。また、本稿では各地区における「子どもの貧困」に関する子育ち・子育て運動の諸課題についても触れている。

住友 剛

子どもたちの進路保障をめざすキャリア教育の創造
差別と貧困の世代間の連鎖を克服するために → 全文PDF

-要約-
 格差社会の進行は個々の家庭生活を脅かし、そこで暮らす子どもたちの学力や生活体験、将来展望等や、保護者の子育ての不安や悩みにまで影響を及ぼしていた。とりわけ、校区の被差別部落のなかでは、差別と貧困の世代間連鎖を生じさせているかのように見える姿があった。それらの現状を克服していくため、「なかまづくり・学級集団づくり」を土台とし、「エンパワメントの力」「リテラシーの力」「キャリアビジョンの力」と呼んでいる三つの側面のもとに、子どもたちの社会的自立に向けた取り組みを進めてきた。

桒原成壽
報 告

人権啓発基本方針づくりの課題 → 全文PDF

-要約-
 部落解放・人権研究所では、1980年代と90年代に部落解放・人権啓発方針を示してきた。その後、人権教育・啓発推進法の制定や人権教育・啓発基本計画の策定などがあり、国連の「人権教育のための世界プログラム」も進行するなかで、新たに人権啓発方針の検討が必要になってきている。部落問題など人権問題への取り組みを通じて人権確立に向けて住民主体の学習が促進されることが課題であり、それとの関連で行政、企業、教育機関、諸団体の役割が明らかにされなければならない。

上杉孝實
編集後記

 今特集は、部落解放・人権研究所のプロジェクトの成果として、人権教育・道徳教育研究会から「人権教育と道徳教育を考える」、地域就労支援調査研究事業から「就職困難者の就労と生活 大阪地域就労支援事業相談者調査から」の二つとなっている。
  第一特集は、人権教育と道徳教育の関係を整理するものである。平沢論文は、道徳教育の理論的・実践的枠組みを参照しつつ、21世紀に求められる市民性教育を人権教育として構築する必要性を指摘している。桂論文は、2008年の学習指導要領改訂の政策的ねらいである新保守主義的な道徳教育の問題点を指摘し、問題を克服する視座としての人権教育を提起する。
  第二特集は、大阪において先進的に取り組まれてきた、地域就労支援事業を利用する相談者(就職困難者)に対する調査結果をまとめたものである。福原論文は基本属性、就職相談と就労経験、李論文は健康状態と住居、内田論文は貧困と社会的排除の視点から、就職困難者の就労に関する経験と、生活実態における重層的な困難を浮かび上がらせるものとなっている。
  個別論文では、部落解放・人権研究所「青少年拠点施設検討プロジェクト」の概要紹介、ならびに、各地区における子ども会活動や子育ち・子育て運動の課題について検討した住友論文、「なかまづくり・学級集団づくり」を土台とする、小学校における子どもたちの社会的自立に向けた取り組み(キャリア教育)を紹介する桒原論文を収録した。
  また、部落解放・人権研究所が現在取り組んでいる、部落解放・人権啓発方針の改訂について、その課題を報告した上杉報告を収録した。 (U)

執筆者一覧
平沢安政(ひらさわ・やすまさ)  大阪大学大学院教授
桂 正孝(かつら・まさたか)  宝塚大学教授
福原宏幸(ふくはら・ひろゆき)  大阪市立大学大学院教授
李 嘉永(り・かよん)  部落解放・人権研究所研究員
内田龍史(うちだ・りゅうし)  部落解放・人権研究所研究員
住友 剛(すみとも・つよし)  京都精華大学大学院准教授
桒原成壽(くわはら・なりひさ)  三重県伊賀市立柘植中学校校長
上杉孝實(うえすぎ・たかみち)  京都大学名誉教授