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書 評
 
評者N.T
研究所通信278号掲載
池田寛、高田一宏ほか

協働の教育による学校・地域の再生
―大阪府松原市の4つの中学校区から

(大阪大学大学院人間科学研究科池田寛研究室、231頁、A4判)

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大阪大学の池田寛、姫路工業大学の高田一宏を中心に、池田寛研究室の大学院生を実働メンバーにしたチームによる昨年1年間の調査報告書がようやくまとめられた。

 大阪府松原市には7つの中学校区があり、それぞれの中学校区に1中学校、2小学校を含んでいる。本調査はその中で、特に文部科学省や大阪府教育委員会などの研究指定を受けて改革に取り組んできた中学校区を選んで行われた。

即ち、第2中学校区、第3中学校区、第5中学校区、第7中学校区の4つの中学校区であり、学校数にすると12の小中学校が該当する。各中学校区をそれぞれ2名の大学院生が担当し、行事への参加、観察、インタビュー、アンケート調査など多岐にわたる調査を、およそ1年間かけて行った。院生がそれぞれの調査対象校区へ出掛けた回数を調査記録から見ると、年間のべ250回程度にものぼる。

 本書は、担当した院生がそれぞれの問題意識に基づいてまとめあげた校区ごとの記述よりなる第2部と、教育コミュニティづくりの可能性について池田寛がまとめた総論、高田一宏が松原の教育改革の意義を論じた部分よりなる第1部とで構成されている。

第2部の4つの中学校区からの報告を先に読んで、1部に戻るとこの調査の目的としたことがよくわかるのではないかと感じた。同じ松原市のなかでも校区の成り立ちや地域の特性など、それぞれに個性がある。その特性を活かしながら、取り組みをすすめていけば、どんな地域においても学校と地域の協働が可能であるという展望を本書は示しているように思う。

 一方で松原ではどの中学校区においてもフェスタが行われている。最近松原以外の多くの地域でも「まつり」や「フェスタ」は取り組まれるようになってきているが、松原のフェスタはそれが1度きりの単なる「おまつり」ではなく、地域と学校のつながりの1年間の取り組みの流れのなかにきちんと位置付いているという点で注目に値する。

各校区ごとに3000人〜5000人の人が集まるというからそのかずだけでも並々ではない。ではどのように位置付いているのか、各校区でどのような仕掛けがあるのか、是非本書を読んでいただきたいと思うが、どの地域にも複数のキーパーソン、コーディネーターとも呼べる人がいるという点が共通項であるように思われた。

 「その地域をコミュニティと呼べる1つの基準は、そこに世代のタテのつながりがあるかどうかである。子どもの成長にとっても、地域の人間関係や連帯感をつくりだしていく上でも、保護者、教師、そして一世代上の人々によってかたちづくる三角形は、コミュニティづくりの一つの重要な目標となるだろう。」と池田寛は一章で述べている。それを築く道筋はまさに地域ごとに異なっている。

 本書は地道な調査に基づく貴重な報告書である。教育コミュニティづくりへの足がかりとしての多くの方の活用を期待する。