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書 評
 
評者I
研究所通信236号掲載
佐藤学

『学び』から逃走する子どもたち

「世界」(1998年1月号)特集「子どもとどう向き合うか」より

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 「子どもたちが学びから逃走している」の書き出しで始まる佐藤氏のこの論考は、現代の子どもたちの姿がリアルに報告され、実に衝撃的である。小学校高学年の「学級解体」の実態。中退率が数年間で4割近くに達してしまったある県立高校の授業風景。ヨーロッパ諸国における麻薬の広がり、アメリカにおける銃犯罪の増加。また、わが国でも「いじめ」「校内暴力」の増加とともに、少年犯罪の件数が1996年度から増加に転じ凶暴化してきているという。子どもたちのこうした危機的現象は、今やどの子にも起こりうるものであろう。そうした意味でも、全ての学校・地域で人権に根ざした教育を進めていくことの大切さが提起されているように思う。

 最終章の「学校改革の検討課題」で佐藤氏は、政府のこの間の一連の教育政策は、ややもすれば危機をさらに拡大し深刻化させることにもなりかねないと危惧を述べている。そして中高一貫教育の選択的導入、「基礎・基本」中心の教育内容、高校における選択教科の拡大などへの批判の根拠を示すとともに、学びから逃走する子ども達を前に、今、必要な施策は教育内容の質の改善であり、学びの意味と魅力の復権であろうと提起している。論考において佐藤氏が指摘している点は、解放教育の立場からしても共通するところである。

 「あれこれの俗論や偏見を排して子ども達が生きている現実を直視し、子ども達の発しているメッセージに耳を傾けることが必要である。未来を開く改革はそこからしか出発しえないのである」と結ばれた言葉に、佐藤氏の子どもへの熱い思いをひしひしと感じた。是非、ご一読を。