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書 評
 
評者中村清二
研究所通信258号掲載
金 泰詠

アイデンティティ・ポリティクスを超えて 在日朝鮮人のエスニシティ

(世界思想社、1999年12月、46判211頁、1900円)

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 「支配文化から押しつけられた否定的イメージから、被抑圧者自らが語り直す肯定的イメージへと政治的に是正しようと」する運動が「アイデンティティ・ポリティクス」である。

 本書の問題意識は、第1に、こうした在日韓国・朝鮮人の民族的アイデンティティが「在日」への圧力に対抗する“武器”として機能する一方、「在日」内部の多様な個や女性等を抑圧する機能を内在していること、第2に、しかし「在日」の民族的アイデンティティを必然的なものと考える見方は否定されるべきとしても、その「必要性」まで否定できないこと、第3に、こうしたことを背景に「在日」の特に3世4世が具体的にどのような選択をしているのかをインタビューと参与観察を通して明らかにすること、であると思う。

 そして、こうした問題意識は、部落問題やジェンダー、障害者問題などに関して、(1)それぞれの社会集団の価値観や生活スタイルといった「文化」を本質的なもの実在的なものとして固定的に捉える見方と、社会的・歴史的に生成・構築されたものと捉える見方、との関係をどう調整できるのか、(2)多文化共生の教育実践の落とし穴、ということにも当然及んでいる。

 以上のようなことを前提に、インタビューと参与観察による分析が、「第3章 民族という自由―在日1世のエスニシティ」「第4章 民族という不自由―在日2世の選択」「第5章 在日朝鮮人子ども会の世界」の3章で示されている。

 若い世代のことは「第5章」で扱われており、特に中学校までは本名で、高校からは日本名に戻って活動している女性の分析が本章の中心的部分かと思われる。著者は「柔軟でしなやかなアイデンティティ」の可能性としているが、関係者からはさまざまな批判も寄せられたとしている。

 部落問題の分野でも、部落民とは、差別・被差別の二元論の問題、部落における若い世代の多様化と部落アイデンティティの関係、さらには部落解放運動のあり方、等々の理論的にもそして実践的にも大きな課題となっており、重なる内容が多い。是非とも一読すべき書である。