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2004.08.13
書 評
 
評者N

平成14年度 大阪府教育委員会委託研究

教育コミュニティづくりに関する調査研究

大阪大学大学院人間科学研究科コミュニティ教育学研究室
(調査研究代表・池田 寛)

  2000年度に大阪府教育委員会が立ち上げた総合的教育力活性化事業によって府内のすべての中学校区に「地域教育協議会(愛称『すこやかネット』)」が設置された。大阪における教育コミュニティづくりは、この「すこやかネット」を中心に進められてきている。

  本書は大阪大学大学院人間科学研究科池田寛研究室が2002年度に大阪府教育委員会から委託された調査の結果をまとめたものであり、府内各中学校区の「すこやかネット」の現状と施策の効果・課題を明らかにしたものである。

  調査方法は、<1>インタビューや取組の参与観察を中心としたフィールド調査、<2>質問紙調査からの結果とその分析の二つからなる。とりわけ、本書の中核をなす質問紙調査は、府内334中学校区の「すこやかネット」事務局へ調査票を送付し、学校関係者と地域関係者の両者に回答記入を依頼したものである(回収率、73.2%)。その意味で、学校と地域のいずれかに偏ることなく、現時点での「すこやかネット」の姿を等身大で映し出したものと言える。本書の全体構成は、以下のとおりである。

第I部   調査の概要
第II部   「すこやかネット」の活動実態(質問紙調査の結果と考察)
第III部  活発な「すこやかネット」の特徴(クロス集計による分析)
第IV部  フィールド調査からの考察

調査のまとめと今後の重点課題

  ここでは、質問紙調査とフィールド調査のデータ分析結果から要点をいくつか紹介しておくこととする。

<質問紙調査について>

  質問紙調査の結果分析によると、「すこやかネット」が設置され、多様な活動が推進されることにより、校区における大人と子ども、大人と大人どうしの交流の機会が増え、「人」「情報」の交流がさかんになるなどの成果が見られるという。

  しかしその一方で、いくつかの課題も明らかになった。最も大きな課題としてあげられているのは、多くの「すこやかネット」において、実務が一部の教職員に担われており、「すこやかネット」の現状が学校主導になっているという印象を学校関係者と地域関係者の両者が抱いている点である。

  立ち上げ期を終えて、今後各地域における「すこやかネット」の自立的な運営が一層望まれる時、この課題を克服するための具体的方策が早急に求められているといえよう。

  第III部では、調査結果のクロス集計を駆使して分析をおこない、「活動度」「変化指数」という指標を用いて「活発な"すこやかネット"の特徴」を描き出している。それによると、「すこやかネット」を通じてさまざまな連携活動が取り組まれている「活動度の高い活発校区」の方が、教職員と保護者・地域住民の信頼関係が構築されており、学校を中心に地域全体で子どもの成長を見守っていく機運が醸成されているという。

  また、一部の校区ではあるが、「すこやかネット」の活動により、子どもの問題行動が減少したり、学校内が活発になったり、家庭内での親子の会話が増加したりといった変化がすでに現れてきているという。今後、教職員・保護者・地域住民による協働が一層進められることにより、上記のような様々な変化が校区に生まれる可能性が期待できる。

  しかし一方で、「活発な校区(変化指数が高い)」と「活発でない校区(変化指数が低い)」のいずれにも共通する課題(要望)も新たに浮かび上がってきている。いわく、「教職員の間で"すこやかネット"への理解が進んでいない」「"すこやかネット"主催の活動にもっと多くの教職員が参加して欲しい」「学校に依存することなくもっと地域で主体的に活動に取り組んで欲しい」等々。

  「すこやかネット」運営上の実務が学校関係者に偏っているという指摘はすでに紹介したが、ここに列挙したような課題が解決されないままでは、各地域の「すこやかネット」の活動は形骸化していく危険性のあることを本書は厳しく警告する。「学校関係者、地域関係者がこれまで以上に組織運営面での互いの役割を考え、"自助"と"協働"にむけて意識を変革しつつ取り組んでいかねばならない」と。

<フィールド調査について>

  第IV部では、池田研究室が過去数年間にわたって府内20箇所以上の「すこやかネット」を対象におこなってきたインタビューや参与観察等のデータを総括し、「すこやかネット」を活性化させる要因として、以下の7点を抽出しその詳細を解説している。

  1. 学校内での意思一致と管理職のリーダーシップ
  2. 学校教育活動への地域住民の参加と学校応援団
  3. 学校と地域のつなぎ役
  4. 多世代の参加と交流促進
  5. インフォーマルなつながりとコミュニティュルーム
  6. 子どもの課題や協働の目標の共有
  7. 行政のバックアップ

  「教職員の間で"すこやかネット"への理解が進んでいない」実態があり、ともすれば自らの本務と別の文脈で「すこやかネット」の活動をとらえようとする教職員が少なくない現在、本書が「すこやかネット」を活性化させるための要因として、第一に「学校内での意思一致と管理職のリーダーシップ」を挙げているのはきわめて示唆的である。

  また、「学校教育活動への地域住民の参加」の項では、「すこやかネット」の活動が単なるイベント主義に陥る傾向を危惧して、日常的・継続的な協働活動を組織することの大切さを指摘している。そして、そのために、学校の教育活動(例えば、『総合的な学習の時間』など)に保護者・地域住民が日常的に参加できる体制の構築のために「すこやかネット」が積極的にかかわることの重要性に言及している。

  他の項目について触れる余裕はないが、今後の「すこやかネット」の自立・発展を考えたとき、ここに挙げた7点はいずれもきわめて重要な指摘であるといえよう。

<今後の重点課題について>

  本書によれば、府内の「すこやかネット」の現状は、連絡調整や具体的な活動を実施する組織体制が整いつつある段階であるという。「活動が活性化している校区」においては、学校と地域の信頼関係が強まり、地域住民の中で子どもの教育に関する問題意識が高まるなどの成果がみられるという。

  しかし、このような顕著な活性化傾向がみられる校区はいまだ一部であり、多くの中学校区では「すこやかネット」の組織は形作られたものの、「課題の共有にもとづく協働」といえる活動は、まだまだこれからというのが正直なところであるという。

  立ち上げ期の4年間を経て、今後、「すこやかネット」の自立・発展という段階を迎える。先ほど挙げた「すこやかネット」を活性化させる7点の要因と関連して、これから「すこやかネット」が重点的に取り組むべき課題を本書は以下の4点にまとめている。

  1. 大人のネットワークの拡大-より多様な保護者・地域の参加の促進-
    1. ネットワークの拡大とキーパーソンソン
    2. 活動領域の拡大
  2. 子どもの主体的活動の促進
    1. 子どもの主体的活動
    2. 中学生の参加・参画、主体的活動の促進
    3. 地域活動から疎遠になりがちな子どもの参加促進
  3. 子育て支援のネットワーク化と子どもの成長のセーフティネットづくり
  4. 地域に開かれた保育所・幼稚園・小中学校づくり

  本書は、府内の各「すこやかネット」事務局に一部ずつ配布されている。それぞれの現場で十分に活用されることをお願いしたい。なお、当研究所の教育コミュニティ研究会においても学習会を開催する予定である。