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2006.08.21
書 評
 
李嘉永

熊沢誠著

若者が働くとき
―「使い捨てられ」も「燃えつき」もせず―

ミネルヴァ書房、2006年2月、220頁、定価2,000円

  ようやく景気が回復の兆しを見せ、失業率も4%前半にまで低下し、有効求人倍率も1倍に回復した。新規学卒者の就職活動も、厳しさは収まりつつあるという。しかしながら、雇用形態については、非正社員比率が3割を突破するなど、働き方の不安定さは増しているといわなければならない。

  このような状況を省みる基本的な視座を、本書は提供している。「一方での不完全燃焼と他方での『燃えつき』、その両者が共存するしんどさ」に目を向けたとき、若者たちの就労問題が、単に「職業観」という若者たちの意識だけに集約されるのではないことが明らかになる。すなわち、「主としてフリーター・二ート問題という文脈で語られる若者労働論が、学校から職場への『トランジションの困難』を重視する余り、正社員の離職理由としての労働現場の状況を視野の外におくとすれば、それはまったく不十分というほか」ないのである。

  では、その現場を顧みたときに、何が見えてくるだろうか。正規雇用には「即戦力指向」、リストラの圧力に長時間労働。非正規雇用には、「人間が消耗部品のように扱われる労務管理」。これでは、若者たちが仕事への意欲を減退させたとしても、無理からぬものがあろう。

  そうであるとすれば、この状況を変革させる取り組みとして求められるのは、現在進行中の若者の就業支援だけでは不十分である。まさに働き方それ自身にも目を向ける必要がある。そのために、著者は、一律型であれ、個人選択型であれ、ワークシェアリングが、最も重要な柱の一つであると指摘する。また、中高年従業員の労働時間を徐々に減らし、他方で若者は増やしていくというリレーモデルも、優れた工夫として推奨している。

  とかく若者たちを非難しがちな現状にあって、本書は、仕事に対して誠に誠実で、そして厳しさを増す働かせ方に対して驚くほど寛容な若者たちを描いている。そういった健気な若者たちに向ける著者の温かく、そして熱いまなざしに、そのひとりとして、心揺さぶられずにはおれない。大人たちに、そして道を見失いつつある若者たちに、是非一読を奨めたい。