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2008.03.28
CSR報告書における人権情報 2006年度版
 

報告書の概要

 今日、多くの企業が、企業の社会的責任(以下「CSR」とする)を果たす活動の一環として、CSRに関する取り組みを「CSR報告書」として公表し、もってステークホルダーに対する説明責任を果たそうとしている。ここには、環境保全の取り組みや、法令遵守・消費者保護といった多様な取り組みが紹介されているが、企業における人権尊重の取り組みもまた、社会的公正さを確保する取り組みの一環として、紹介されているところである。当研究所では、これらのCSR報告書を収集し、特に人権尊重の取り組みに関する記載内容の傾向を分析し、かつ先進的な記載事例を「グッド・プラクティス」として取り上げ、もって人権尊重の取り組みに関するコミュニケーションについて調査することとした。

 今回は、2005年度版のCSR報告書調査に引き続き、2006年度版のCSR報告書を収集・分析し、「2006年度版 CSR報告書における人権情報」として、その結果を取りまとめた。以下、その概要を示すこととする。

 第1章では、CSR報告書の意義と近年の動向を取りまとめている。CSRとは、企業が、営利の追求のみならず、環境保全や社会的公正さを確保するための取り組みであるが、このような取り組みは、単に企業内部での取り組みに止まらず、ステークホルダーへの説明責任を果たすことも、重要な要素としている。そのコミュニケーションツールとしてこれらのCSR報告書は機能していると指摘している。他方で、紙幅の限界や業種の違い、CSRの進捗状況などによって、記載の内容やその質について取捨選択が迫られることもありえる。その結果、報告書の記載内容が、十分に実態を反映しているとは限らないという信頼性の問題が生じる。このようなギャップを埋めるには、報告書の内容を踏まえて、ステイクホルダーとの対話の中で、実態を明らかにしていく必要があると指摘している。

 その上で、CSR報告書に関する内外の動向(グローバル・コンパクト、GRI、環境報告ガイドラインの改訂、CSR報告書に関する各種調査)について、いくつか紹介している。

 第2章では、今回収集したCSR報告書590社・593誌について、人権情報の記載状況を抽出し、数的な傾向を分析した。その際、2005年度版の傾向と比較し、注目すべき変化について指摘している。

 その際指摘した変化として注目に値するものを挙げるとすれば、環境報告書を含めて報告書の発行数もさることながら、報告書のタイトルとしてCSRを盛り込む企業が77社から163社と飛躍的に増加している。また、CSR調達の普及に伴い、取引基準に人権尊重を盛り込む企業、さらにかかる基準に基づいて取引先調査を実施する企業は、若干ではあるが増加しつつある。また、本業における人権尊重や、本業を活用した社会貢献活動についての記載も、総体として増加している。CSR報告書発行の本旨であるステークホルダー・ミーティングについても、その実施状況を報告するものは36誌から84誌へと増加している。

しかし、トップステイトメントや企業行動憲章等で人権に言及する事例はさほど増加していない。ネガティブ情報を含めた課題の提示についても、2005年度版と同様、低調である。CSR報告書への移行しているにもかかわらず、人権については内容が追いついていない状況が危惧されるところである。

 さらには、ステークホルダー・ミーティングにおいて人権が言及される事例は23誌に止まっているし、第三者意見・第三者評価のうち、第三者評価については人権に言及する事例は比較的少ない。これらのことから、ステークホルダーや第三者の側で、人権問題に関する位置付けを強化していくことも課題であることが指摘できよう。

 なお、補論として、日本において同和問題をはじめとする人権問題の解決に向けて取り組んできた「人権・同和問題企業連絡会」に加盟する企業が発行した報告書について、その特徴を検討した。特に人権啓発活動や人権尊重のための体制整備について、一般的な傾向に比して優位性が見られる。しかし逆に、実際に取り組んでいることが報告書の記載から漏れているとも指摘できよう。なお、これらの報告書には、人権問題について掘り下げて紹介している先進事例がある。それらを幾つか紹介している。

 第3章では、特にCSRをタイトルに含む報告書の特徴を検討している。これらの報告書における人権情報、とりわけCSR体制、ステークホルダー・ミーティング、トップステイトメント、サプライチェーン・マネージメント、人権の社内体制、人権啓発、本業を活かした取り組み、自社評価など17分野にわたるグッド・プラクティスを紹介し、また、その結果明らかになった課題について指摘している。特に課題の部分では、人権の取り組みに関する記載について大きな温度差があること、海外の動向に殆ど触れていないこと、人権が従業員の箇所に限定される傾向があること、非正社員や就職困難者には殆ど触れていないことなどを指摘している。

なお、章末には、これらのグッド・プラクティスの事例一覧表を付しているので、是非ご参照いただきたい。

以上の検討の結果、さまざまなグッド・プラクティスと、課題が明らかになった。各企業においては、今後CSR報告書を作成するに当たって、これらの検討結果を参考に、一層の充実が図られることをお願いしたい。