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2008.11.14
書籍・ビデオ案内
 
Human Rights 2008年5月号(NO.242)
求められる人権救済制度の確立
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連載 エンパワメントと人権 続編 第82回

ファシリテーターのスキルアップ研修 1

森田ゆり(エンパワメント・センター主宰)

 ファシリテーターのスキルは今や職場でも学校でも野外活動でも、生活のさまざまな場面で必要とされるようになった。筆者の主宰するエンパワメント・センターでは、1998年以来10年間、参加型学習のファシリテーション研修を行ってきた。特に2004年からは、すでに一度でもいいからファシリテーション経験がある人を対象に、スキルアップの研修を行っている。各会約40人の参加で、過去4年間に8回開催したので320人ほどの人がスキルアップ研修を修了したことになる。終了した方々は、学校、医療保健の現場、野外活動、企業、カウンセリングなどそれぞれの場で、学んだことを活用している様子を聞いている。

4月に2日間14時間でファシリテーターのスキルアップ研修を実施した。その内容の概略をここで2回に分けて紹介しよう。

目的:ファシリテーションのスキルをアップする

目標:参加者が、

  1. ファシリテーションとは何かを理解する。
  2. ファシリテーターとして必要な三条件と七つ道具を学ぶ。
  3. 質問力とコメント力をつける。
  4. リラクゼーションの活用法を学ぶ。
  5. モデル・ファシリテーションの模擬ワークショップを体験する。
  6. ファシリテーションのスキル演習へのコーチングを受ける。

テキスト:この研修は「森田ゆり講師による3日間の多様性・人権参加型トレーナー養成講座」の応用編にあたるので、『多様性トレーニングガイド―人権啓発参加型学習の理論と実践』(解放出版、2000年)「研修用ワークブック」をテキストとして用いる。

1、ファシリテーターとは何か

英語の辞書には「促進する、容易にする、円滑にする、スムースに運営する」などとある。

facil とはラテン語で「易しい」の意味。

場を作る、場を起こす、場を開く、場を深める。

グループの力を推進する人、活性化する人、生かす人。

そしてそれは、多様性社会におけるリーダーシップ力の一つである。

ファシリテーションとは、個人(要素)ではなく、人びとが共働する場(関係性)を重要視する。そこには生命科学や経済学におけるシステム論(1.機械 2.有機体 3.社会 4.心理)のパラダイム転換がある。

たとえていうならば、1+1+1+1+1=5ではなく、1+1+1+1+1=5±αなのである。ファシリテーターは、1+1+1+1+1の場を+αにもできれば、-αにもする。個人が集まった場に起きる力動を+αの方向へ向けるのがファシリテーターの役割と言える。

人を管理するのではなく、人と人との関係性を舵取りする方法を 場のマネジメント と呼ぶ。

場とは、二人以上の人が共有目的、共同意欲、コミュニケーションの三つの要素を持って存在していると考えるならば、ファシリテーターはその三つの舵取りをする水先案内人と言える。

ファシリテーターは場の参加者に、共有目的を思い出させ、共同意欲を高め、コミュニケーションの疎通や工夫によって、場を目的に向かって進めていく。

2、ファシリテーションの活用応用範囲は以下のように実に広いので、どの分野の人も身につけたいスキルである

会議進行(司会とは別)、問題解決、合意形成、企画進行、野外活動、心理治療、心理教育、研修、自助グループ、分かち合い、語り合い、リーダーシップ、コーチング 筆者が現在取り組んでいる虐待する親の回復のためのMY TREE ペアレンツ・プログラムや当事者とその拡大家族による問題解決の画期的方法である家族えん会議は、高度なファシリテーション力を必要とする。

ところで、司会とファシリテーターはどう違うのだろう。思いつく違いを列記してみよう。

司会:まとめる、決まった結果に導いていく、司会者自身が発言内容をたくさん持っている。

ファシリテーター:参加者に話させる、参加者どうしで意見を交わさせる、自分自身が意見をあまり言わない。

こう考えると、司会はコンテント(内容)を重視し、ファシリテーターはコンテクスト(プロセス)を重視することが明らかになる。

3、ファシリテーターの三条件と七つ道具

三条件

1.安心な場作り:ファシリテーターの最も重要な役割は全員が安心して参加できる場を保障することである。そのためには傾聴の姿勢とスキルが必要になる。参加者全員を尊重し、どのような発言もまずは受け入れ聴く。ただ耳を傾けるだけではなく、相手の言ったことを反復したり、共感を伝えるなどのスキルは二日目に演習する。また、基本ルールやダイアッドなどの道具も必要になる。

たとえば、参加型の人権学習をファシリテートしているときに、参加者が差別意識や偏見をもった意見を述べた時も、まずは受け止めた上で、「そうですね。他の人はどう考えますか。」「そうですか。今のことで別の意見のある人はいますか。違った体験をされた方はいますか。」などと、違う考えや経験を他の参加者に促す。「それはちがいます」「それはおかしい」といった参加者の発言を否定するような言い方は極力避ける。

2.エンパワメント:「誰でもがその場に貢献できる何かを持っている」という姿勢で参加者一人ひとりを尊重する。意見を言わない人もそこに存在することで貢献する何かを持っている。

ファシリテーターが安心な場作りを保障することで、参加者の持つその何かを引き出すことができる。

3.プロセス:ファシリテーターの役割は、コンテンツ(内容)よりもコンテクスト(枠組み、文脈)にある。ファシリテーターは学びのプロセスを起こす。そのためにファシリテーターは、参加者の話を引き出す、参加者同士の話の焦点を定める、参加者の意見やグループの意見への適切なつなぎをすることで、場を共同の目的に向かって進行させる。

七つ道具

これらの道具の使い方は、拙著『多様性トレーニングガイド』の六五-七六頁に詳しく書いてあるので参考にしてほしい。ここでは、基本ルールとダイアッドについてだけ、『多様性トレーニングガイド』から引用した。

「〈基本ルールを設定する〉

二人以上の人間が何らかの共通の目的を持って時間と場所をともにするとき、ルールはどうしても必要になる。ルールはその複数の人間の関係を安心できるものにするために必要なものだ。ルールは、ひとの自由な選択を拘束するためにあるのではなく、社会生活を安心して生きるためにある。

学校で、職場で、家庭でルールがあるのはそこに集う人びとが安心して、同じ時間と場所を共有するためだ。だからルールはたくさんはいらない。少ない方がいい。安全と安心が保証されるための最小限のルールがあり、そのルールはその場のメンバー全員によって了解されていなければならない。ルールとは約束ごとである。

たくさんのルールがメンバーの同意もなしに強制されているところでは、ルールは安心できる環境を作るためではなく、人をコントロールするために設けられているといえる。逆に全くルールがないところでは、誰か一人が権力者になってしまい、その人のそのときの気分や気まぐれでルールが敷かれてしまいがちだ。

ファシリテーションの場でも同じことがいえる。参加者全員がここではあたりさわりのない発言や正当論で身を守らなくてもいい。本当に考えていることを言える、気持ちを表現できると思えるような安心な場作りのために、ルールの設定が必要になる。」(『多様性トレーニングガイド―人権啓発参加型学習の理論と実践』解放出版社、六七-六八頁)

わたしは、通常の参加型研修セミナーでは、次の四つのルールを設定する。

基本ルール
   参加
   尊重
   守秘
   時間

一つひとつの意味を説明したら、参加者にルールに関する質問、意見を聞く。その上で参加者がルールを守ってくれるかどうか挙手してもらう。ルールは研修のあいだずっと黒板の隅に書いておくか、皆がよく見えるところに貼っておく。ルールを守らない人が出てきたときに道具として使うためである。」(前掲書)

ルール違反者が出た時、進行が困難になったとき、参加者と一緒にもう一度ルールの再確認をする。

このようにルールの設定と全員の同意というプロセスは、安心できる場を保障すると同時に、参加者間のポジティブな雰囲気を維持するというファシリテーターの役割を助けてくれる。

「〈ダイアッド〉

以下のような理由で進行が難しくなったとき、役に立つ道具にダイアッドがある。

*討議が感情的になりすぎたとき。
*参加者が交わしている議論をまとめようがなくなった。
*意見を言いたい人が多すぎる。
*逆に誰も意見を出そうとしない。」(前掲書72頁)

ダイアッドは隣の人とペアになって、意見を分かち合うことだが、その時にルールが一つある。聞く側は相手の話をしっかりと聞くだけで、相手に意見を返したり質問したりしない。1分なり2分の時間で話す人、聞く人の役割を交代する。聞く人が質問も意見も言わないという前提があるため、話す方は安心を保障されている。

進行が困難になった状態に対処するファシリテーションのベストの方法は、ダイアッドによって参加者自身に状況を打開する道を開いてもらうのである。

4、思考や概念や状況を図式化する練習

ファシリテーターは概念や状況を図式化して、参加者にわかりやすく共有するスキルが必要である。

図式化の基本型:ツリー型 サークル型 メイトリスク型 フローチャート型 ここでは、そのひとつひとつを説明することを省くが、研修では、それぞれの型がどのような場に使われているかを参加者に出してもらう。

ツリー型の一つのタイプとしての、マインドマップは特にファシリテーターが重宝する道具である。

5、アクティビティー

マインドマップを作ってみよう

「マインドマップ使用にあたっての留意点

*これはあなたの認識と試行の整理のためだけにするものである。
*だから人に見せることを考える必要はない。
*あなたが自分でわかる省略語を自在に使って、時間をかけずに書くのがポイント。
*思いつくままに書く。項目の位置が間違っていないかなどと考えなくてもよい。
*あとから付け加えたり、省いたり、位置を変更したりして構わない。」(前傾書196頁)

演習1.自分をマインドマップでかく

マインドマップの例(『多様性トレーニングガイド』198頁)

演習2.新聞記事をマインドマップにする

研修では「パール判事と平和憲法」(中島岳志、毎日新聞、2006年5月16日)を速読しながら、マインマップを作る演習をしている。著作権の問題で誌上では省略した。

研修では、演習1も2も、二人ずつホワイトボードに書いてもらう。そうすると特に演習2のマインドマップは人によって書き方がずいぶんと異なることが明らかになる。

6、今日のリフレッシャー

明日のリフレッシャーをやってくれる人は?

リフレッシャーとは、参加者の疲れや眠気を払うために行う身体を動かすゲームやエクササイズ。参加者どうしの肩たたき、ストレッチや椅子取りゲームなど、楽しく身体を動かすことができるもの。(前掲書75頁)

次回では、研修2日目の実践編を案内する。

傾聴力、コメント力、質問力の演習

自分のやりたいテーマでファシリテーションの実演をし、それに対しフィッシュボウルというトレーニングの方法でコメントを返していく。実演する人は、森田と事前に打ち合わせをする。


森田ゆりのホームページ
http://www.geocities.jp/empowerment9center/index.html

■DV家庭に育つ子どもへの支援 6月14、15日
■新・アサーティブ研修 6月28、29日
■新・子どもへの虐待防止に携わる人への研修 7月5、6日
■多様性・人権啓発トレーナー/ファシリテーター養成講座 7月19、20、21日
すべての研修は森田ゆり講師によります。会場は兵庫県宝塚か西宮

■問い合わせや申し込みは、エンパワメント・センターへ
FAX 0798-51-2903

■詳細・申込みはホームページ
http://www.geocities.jp/empowerment9center/