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部落解放・人権研究所編『部落問題人権事典』より)
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【同和地区】

 行政機関による*被差別部落の呼称。同和地区とは,<歴史的社会的理由により生活環境等の安定向上が阻害されている地域>(*同和対策事業特別措置法1条)をいう。政府の把握した地区数は,1993年(平成5)調査では4533地区(うち*同和関係人口【どうわかんけいじんこう】が把握できなかった91地区を除くと4442地区)である。過去の調査では,67年(昭和42)3545地区,71年3972地区,75年4374地区,87年4603地区と短期間で変動が大きい。

 <同和地区>は,被差別部落を指す行政用語であるが,厳密にいえば被差別部落と同じではない。すなわち,行政機関によって*同和対策事業が必要と認められた地区に限定され,歴史的には被差別部落であっても,同和地区と認定されていないところがある。これを未指定地区【みしていちく】という。たとえば,東京都,富山県,石川県では同和地区はゼロと報告されているが,過去には,それぞれ20地区,233地区,47地区(1935年調査)が存在していたから,これら3都県だけでも,相当数の未指定地区が存在している。また,同和地区数は,71年から87年にかけて増加する傾向にあった。これは,地区住民の意識の高まりや自治体の姿勢の変化によるものであった。しかしながら,政府は87年の<*地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律>以降,新たな地区指定は行なっていない。

〈未指定地区〉

 未指定地区になった経緯については,さまざまな理由がある。第1に行政機関の部落問題に対する消極的姿勢,第2に地区住民の間で*〈寝た子を起こすな〉という声が強いこと,第3に,ある程度豊かな地区であったため,<生活環境の安定向上>に主たる力点を置いてきた同和対策事業の実施の必要がなかったため,などが挙げられる。第3の理由による少数の場合を除いて,未指定地区では,同和対策事業が未実施のまま,劣悪な生活実態が放置されている。

 また最近では,同和対策事業がすでに十分な成果をあげたということから,同和地区指定の解除を求める動きもある。しかし,地区内の<生活環境の安定向上>という側面に限ってみればこのような動きもわからないでもないが,差別は社会的関係の問題であり,まだ差別が解消してはいないとして,時期尚早と疑問視する意見もある。

〈同和地区の概況〉

 以下,93年調査結果によって概況を述べる。同和地区は全国で4533地区である。分布には大きな偏りがあり,同和地区の報告のないのは北海道,青森,岩手,宮城,秋田,山形,福島,東京,富山,石川,沖縄である。地区数でもっとも多いのが福岡の606地区,2位が広島の472地区,3位が愛媛の457地区。他方,長崎,山梨,福井,愛知などは10地区を切っている。同和地区人口がもっとも多いのが,福岡の30万5051人,2位は長野の21万3819人,3位は兵庫の20万6156人。もっとも少ないのは長崎の2293人,福井の2692人,山梨の3956人である。

 1地区平均の世帯数は166世帯。5世帯未満10.1%,5〜9世帯14.1%,10〜19世帯18.7%,20〜29世帯12.1%,30〜39世帯8.4%,40〜49世帯6.0%,50〜59世帯4.6%,60〜99世帯10.6%,100〜159世帯6.5%,160〜299世帯5.0%,300〜999世帯3.5%,1000世帯以上0.5%である。同和地区の規模は,府県によってかなり違いがあり,大阪をはじめとする近畿地方では、大規模な地区が多いが,広島や愛媛など中国・四国地方では小規模の地区が多い。

 立地条件をみると,4533地区のうち市街化区域1199地区(26.5%),市街化調整区域1065地区(23.5%),その他972地区(21.4%),指定なし1581地区(34.9%)である(多重回答のため合計は100%とならない)。市街化区域以外を農村部の同和地区とみると,4分の3ほどを占める。農村振興地域等の指定を受けているのは3076地区(67.9%)であり,そのうちの2304地区は49世帯以下の小規模地区である。また,*過疎地域の指定を受けているのは1039地区(22.9%)である。振興山村の指定を受けている地区は578地区(12.8%)である。その内訳は,中国265地区,中部100地区,近畿85地区,四国78地区,九州41地区,関東9地区となっている。他方,市街化区域のうち住宅系1072地区,商業系186地区,工業系277地区である。

参考文献=総務庁長官官房地域改善対策室『平成5年度同和地区実態把握等調査――地区概況調査報告書』(1995)/北孔介『放置された1000部落――事業未実施地域を見て』(解放出版社、1989)

(野口道彦)