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 この項で紹介している事件は、差別発言したのが神社の宮司ならびにその家族であり、今回本書では設けていない「宗教界における差別事件」に分類される事件でもある。

 記事は慰謝料請求訴訟を提訴したと紹介しているが、その後さまざまな事情により取り下げている。ただし、差別事件がなかったということではなく差別発言を受けた本人は、これからも差別撤廃の取り組みを決意している。事件は、「子どもを産ませたら部落民の子よ」「お宮の宮司が部落民をもらったなんて、世間に知れたら物笑いされるわよ」などの言葉が交わされるなど、部落民であることを理由に結婚を反対されている。

 ここで部落解放・人権研究所が2003年3月にまとめた『部落マイノリティ(出身者)に対する結婚忌避・差別に関する分析』から結婚差別についての研究報告を少し長くなるが紹介しておく。

 この報告書は、被差別部落マイノリティ(出身者)に対する結婚差別を軽減・解決するために、第一に結婚差別が生じるメカニズムを解明するとともに、第二に具体的な事例にもとづいた検討・分析を行うことにより、結婚差別をのりこえるための諸条件を析出することを主たる目的にしている。

 簡単にまとめてみると、まず、結婚差別のメカニズムについては、第一に、部落マイノリティに対する結婚忌避・差別は、主に「家意識」「偏見」「人種主義」「差別に対する現状認識」「内婚規範・同類婚規範」「幸せな結婚イデオロギー」によって生じる。第二に、配偶者選択は主に同類婚原理にもとづいて行われ、それは家族の「安定」をもたらすための合理的な選択でもある。日本ではとくに学歴階層内婚傾向が強いという特徴がみられる。第三に、そのような配偶者選択のメカニズムに照らし合わせると、マジョリティとの同類的要素を持たないマイノリティは排除される傾向にある。すなわち、結婚忌避は、部落マイノリティに対してのみならず、何らかの「不安定性」をもたらす「マイノリティ」全般に対して生じる。第四に、部落出身であることが顕在化しなければ部落マイノリティに対する結婚差別は生じない。

 また、インタビュー調査にもとづく個別事例から、第一に、結婚差別に結びつきやすい「家意識」や「家族意識」を基盤とする家族・親族の結婚への介入は根強く、結婚に対する親族の力は大きい。第二に、結婚差別をのりこえるためには、<1>パートナーやパートナーの両親が部落に対する偏見を内面していないこと、<2>部落問題の知識を身につけ、相手に納得させるだけの説明ができる能力を持っていること、<3>部落外マジョリティが親や親族ネットワークから社会的・経済的・精神的に自立していること、<4>差別にあった人をサポートする存在がいること、などがあげられる。

 これらの分析から、結婚差別のメカニズムは、決して部落差別という一変数のみで説明することはできず、配偶者選択のメカニズムなど結婚システムそのものが孕んでいる問題だということがみえてくる。ここに個々の差別の実態から「差別の原因」にせまり社会システムの変革につなげていくことの重要性がある。結婚差別をなくすためには、「他者」との出会いと関係を、だれもが積極的に受けとめられる社会づくりが肝要なのである。