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■企業・職場での差別事件

 福岡ではA社福岡支社営業部の職員が契約者宅を訪問の際、契約者が近く引越しするという話題のなかで、その転居先について「ご存じですか。同和地区ですよ」「娘さんがいるので本籍を移さない方がいいですよ」と発言した事件に対する糾弾会について報告されている。また、広島では自動車事故の処理について指導していた(財)全国市有物件共済会中国支部査定調査役が、「私は現在の仕事の前はN火災に勤めていたのですが、そこで東部の(福山の)ほうは『ヨツ』の関係が多いから、そういう人に、治療を無理強いされるようなことがあってはいけないということを聞いたことがあるので、気をつけて下さい」と発言した事件が発覚している。

 これらはいずれも差別発言をした本人自身の体験にもとづくものではなく部落に対する予断と偏見からのものであったことが明らかにされている。なお、広島の事件については、広島法務局が共済会に対して「特定の運動団体が参加する事実確認会に出席する必要はない」と指導している。個々の差別事件の重大さを認識していないばかりか、事実確認や糾弾会などによって一つひとつの差別事件から多くの課題や問題解決の糸口をつかんできたという成果をまったく認識しておらず、被差別当事者の立場に立っていないという法務省の姿勢が窺える。

■公務員による差別事件

 「和歌山市職員差別身元調査事件」はすでに昨年度版の「全国のあいつぐ差別事件――その紹介と分析――」で、和歌山市職員による差別メール事件とあわせてごく簡単な紹介をしている。具体的には、和歌山市水道局職員Aが自分の子どもの結婚に際して、まず同じ和歌山市役所の知り合いの職員に「他人の謄本見せてくれるか」と頼み、断られると、職場の同僚に同和地区についてわかる部局がどこかを尋ね、その同僚から注意されてしまう。すると今度は庁外から国民年金課へ電話で「○○番地の××さんは同和の人ですか、調べてくれますか」と尋ね、ここでも断られると、支所、県人権室と続けて問い合わせている。行政の窓口でこれほど執拗に身元調査が行われていたにもかかわらず、どの窓口でも適切な指導をしていなかったのである。ましてや差別メール事件のすぐ後の事件である。「法」失効後、同和行政が人権行政の中に埋没させられているという気配もあるなか、部落差別の深刻さとそれに対する行政の姿勢が垣間見えた事件である。

 今後はむしろ、より一層きめ細やかに被差別の実態を把握し、その解決の手立てを被差別当事者に対して人権行政として推進していくという姿勢が必要である。そのためには被差別部落の実態調査に加えて、総合的な生活相談やそこからの支援方策をしっかりと創造していくことが大切なのである。そしてそこには行政の主体としての、また協働のパートナーとしての行政職員の資質が問われるのである。